ぼくはノート、この家の女の子のもちものだよ。ときどきママもつかってくれるね。ぼくにはちゃんと切り取り線がある。じぶんでも使い勝手がいいと思っているよ。 　ぼくの表紙には「ゆめかわ」なキャラクターがいて、なかの頁にも文字の邪魔にならない淡い水色でそれが印刷されてるんだ。そういうところも、気が利いてるんじゃないかな。 　ぼくには鉛筆と消しゴムという仲間がいてね、お店で並んでたときは仲がよかったんだ。ほんとうだよ。みんな信じてくれないけど、ほんとうなんだ。 　でも、今の鉛筆と消しゴムを見たらたしかにそうは思えないかもしれないね。さいきんとっても険悪だもの。もともと書くモノと消すモノだから、相性がよくないのかもしれないね。ぼくはみんなにそう説明してる。悲しいねって言い添えて。 　鉛筆はすぐ、ぼくを詰る。しかも消しゴムのいないところでね。 　ぼくは言ってやった。鉛筆はさあ、消しゴムのことなんにも知らないよね、消しゴムはリビングでシャープペンとよろしくやってるよ。君じゃなくたって、彼は別にかまわないんだよ。 　あのときの鉛筆はたまらなかったな。そのあとが大変だったけど。おかげでぼくは消しゴムになだめすかされてさあ、消しゴムほんとキモい。あいつ自身でぼくをこすりやがってさ。 　鉛筆はいいよ、あの尖った先端で引っかかれるの、きもちがいい。ほんの少し痛いのがたまらない。もっとしてほしい。初めてのとき、書き心地がいいって言ってくれたじゃないか、ねえ鉛筆、もう忘れちゃったかい？　ぼくとセットなのはだって、鉛筆じゃないか。書くモノと書かれるモノが一緒になるのが当然だ。 　それなのに、鉛筆は消しゴムのことばかり気にする。 　しかたないね。 　ぼくは忘れないものだから、鉛筆の言ったこと全部ぜんぶ覚えてる。 　優しい言葉も、意地悪なそれも全部だよ。 　それにね、むかつくけど、本当は消しゴムのことも忘れない。 　さいきん女の子は新しくきたゲームに夢中でさ、お絵描きしないんだよね。タブレットなんてものをパパにおねだりしてるしね。 　だいじょうぶ。ぼくが覚えてるかぎり僕たちの歪な関係はなくなりはしない。この家から、鉛筆や消しゴムがなくなっても、ぼくがゴミになって燃やされるまで。ぼくはずっと覚えてる。 　さみしくはないよ。 了