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十四、柊の思案

 舜海と佐為は、馬を並べて国を歩き回っていた。  結界を張るための場所を測りながら歩いているのである。佐為が開いた青葉国の地図、そこには朱墨で五芒星が描きこまれていた。  各頂点に護符を貼り、そこから結界を成すのである。 「ここや」  佐為の行きたい場所に、舜海が案内するということを繰り返しているのだが、舜海は朝から無口である。 「これで終わり、さて……ちょっと茶屋にでも寄って行こうよ」 と、甘いもの好きの佐為はそう言った。 「ん?ああ……せやな」 「舜海、元気が無いな。昨日はあれから、何もしなかったの?」 「してへんよ。もうせぇへんって、決めたんや」 「ふうん。千珠、今朝は元気いっぱいだったけどな」 「一応、気は高めた」 「そうか」  佐為は並足で進む馬に揺られながら、舜海の横顔を盗み見る。 「君、本当に千珠が大事なんだな」 「……もうええやろ、そんな話」  舜海は苛立った口調でそう言うと、ふいと先に立って歩き出す。  ❀  一方、柊と宇月も、地図に佐為が示した場所に札を貼り付け終えていた。  柊はちらりと宇月を見た。ここ最近、どことなく女らしく見えるのは何故だろうかと考えていたのだ。 「これでいいでござんすな。……何です?」  柊の視線を受けて、宇月は胡散臭そうにそう言った。柊は苦笑すると、首を振る。 「さて、佐為たちに合流するか」 「はい。ところで、昨日なにか言いかけていらしたこと、なんでござんすか?」 「え?ああ……。俺は嫁をもらうことになった」 「ええっ!それはおめでたいでござんすな!」  宇月は顔を輝かせてそう言った。柊は相変わらず無表情のまま、空を見上げる。 「昨日、少しだけその相手の女に会った。昨日お前に話そうとしていた時は、あまり乗り気ではなかったのだが……」 「お会いして、心が動いたのでござんすね」 「ああ……。俺は自分で思っていた以上に単純な男らしいわ。ずっと憧れていた、などと言われただけで、この女でいいと決めてしまえるんやから」 「まぁ」  宇月は笑った。柊はふっと笑うと、 「昨日はお前に背中を押して欲しいと思ってたんや。もうええ年なんやから、身を固めるでござんす……そんな感じで」 と、宇月の口調を真似る。 「まぁ、そう言っていたでしょうね」 「やろ?早く子どもでも作って、じじいが生きとるうちにひ孫を抱かせてやるんも孝行かなと思ってな」 「それは楽しみでござんすね」 「お前は千珠さまとの先を、考えたことはあるか?」 「えっ?」  宇月は一瞬にして真っ赤になった。  前方を向いたままの柊は、そんな事には気づかぬふりをして馬を進めている。 「お前といて、あんなにも幸せそうなんや。まぁまだ、千珠さまは若いが、そのうち」 「……そのうち、でござんすよ」 「初めは千珠さまを攻撃したお前が、今は一番の理解者とはなぁ。人生何が起こるか分からへんもんやな」  三年前に宇月が初めてここへ来た時のことを、柊は思い出して笑った。その時の宇月と比べて、今の彼女はずいぶんと女らしくなったと思う。  力を認められて得た自信と、千珠に愛されることで得た美しさ……。  ――舜海は、どうしていくつもりなのだろう……。  表向きは千珠さまの幸せを見守るつもりなのだろうが、その実、胸の内にはどんな想いを抱えているのやら。  柊はそんなことも考えながら、宇月と連れ立って、春の花々の咲く河川敷を進んでゆく。

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