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第15話

「あは。こういうの慣れてないんだ」  手首を捻るように掴んでくる。骨が軋みそうだ。 「こーゆーの俺らの世界じゃなんていうか知ってる?」  「俺らの世界」という単語が怪しげで。俺は静かに首を振った。 「ハンティングって言うんだぜ」  耳打ち。その刹那、首筋に何がが押し当てられた。先端が尖っている、なにか。 「ついてくるよな」  首筋に宛てがわれたのは万年筆だった。どうしてそんなものを、と頭に疑問が浮かぶ。でも、それより今は命が危うい。俺はこくんと頷き返した。伏黒佐波人は万年筆のキャップを閉めると、それを斜めがけのバックに入れる。そしてまた、俺の肘を掴んで居酒屋の従業員入口に向かう。勝手を知っているらしく、迷うことなくビルの裏手から外に出た。そして、居酒屋のちょうど向かい側にあるビジネスホテルに連れていかれる。俺は脅された手前、抵抗できない。  わけもわからないまま、ホテルの部屋に連れ込まれた。服が濡れてることなんか忘れるくらいに恐怖に包まれている。40歳のいい歳した大人がビビっているのだ。こんな、会ってまだ1時間も経っていない男に脅され、ホテルに2人きり。俺の本能が逃げ出せとサイレンを鳴らしている。でも、身体が固まって言うことをきかない。 「なに? びびってんの」  ふ、と伏黒佐波人が笑う。ピエロみたいな笑顔に身体に悪寒が走る。 「真嶋さん。奥さんいるだろ?」  黙っていると、「答えろよ」と彼が長い足で俺を小突いた。 「……ああ」 「やっぱりな。今の人生に満足してる顔してっからさ。既婚かあ……すげえそそる」

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