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第30話
「何それ。名前も知らない男から言われて、こんな大それた事をしたのか?そいつら」
崎山はさすがに呆れたと言わんばかりの顔をして、事務所に報告に来た相川を見た。だが、さすがの相川も”お前、馬鹿だろう”と言ったほどに、男達の行為は愚かだったのだ。
「いや、マジで俺も、びっくりしたもんねー」
相川は心の定位置であったソファに腰掛け、背凭れに身体を預けると大きく息を吐いた。佐々木が絞め上げた小前が話したことに、疲労感が一気にきた感じだ。
まさか、それはないでしょうと眞澄と眉を顰めたほど。
「あいつらは、とりあえずそのダサダサのチームの格を上げるのに必死だったわけー。極道もんじゃないもんだから暴対法も適用されないけど、成人してる奴も多いから暴走族っていうのとも違う。何か足下ふわっふわなのよ。そんな時に声掛けられたんだって。仁流会を潰してみないかって」
「アホなの?」
「アホなの。ま、アホだから、ここまでしちゃったんだよ。初めはビビって出来ねぇって言ってたらしいよ。でも、出来るかもーとか思っちゃったんだよねー」
「どうして?」
崎山の疑問に相川はニヤリと笑った。
「軍資金。チームとしての特攻服作って移動出来る車も買ってもらっちゃって、仁流会の情報も渡されてって次から次とアイテム貰っちゃったらねー」
「金、貰ったのか?」
「そ、聞いて驚け、その特攻服と車とは別に2千万だからな」
「は!?」
「俺も驚いたわー。あんなクソガキに2千万よ?ないわー」
相川は世の中どうかしてるねと言って。とスーツのポケットから缶コーヒーを取り出して、プルを引き上げた。
「おかしいな」
「おかしいっしょ」
「違うよ、ね、あのクソガキ共に2千万よ?」
「へ?」
崎山の言いたいことが分からずに、相川は首を傾げた。
「腕に自信のあるガキばかり集めたとしても、所詮はガキじゃない。俺なら2千万使って、もっと優秀な人間雇うけどね」
「ま、そうね」
「うちと鬼頭組、風間組、あと明神組。全てに手を掛けるとして、人数が足りないからっていう理由だとしても、数が多ければいいってもんじゃないでしょ?結果、大人数で挑んだのに捕まっちゃってるんだもん」
数打ちゃ当たるってものでもない。一人、腕の立つ人間が居たとしても、所詮は普通の人間に比べて腕が立つ程度なのだ。
相手は裏世界でこの平成の時代に、命の取り合いをしている極道だ。格が違うのは歴然。
それをどう勘違いしたのか、出来ると思って喧嘩を売ってくるにしても中途半端すぎて、それが余計に腹が立つ。
「それに爆弾の件は、そいつらじゃないんでしょ?」
「それは知らないらしいぜ。鬼頭組へのボーガンと、うちの経営する店への嫌がらせは認めたけど」
「何なんだ、まったく」
崎山はどこか掴みどころのない現状に苛ついているのか、ネクタイを緩めて舌打ちした。
「で、そのパトロンは誰なのかって分かってるんだろうな」
「佐野心」
相川がその名を口にすると、崎山の眉間に皺が寄った。相川も両手を広げて、やれやれと首を振った。
「佐野心っていうのは、あの佐野心か」
「そうそう、うちに発破持ち込んでくれた、あの自称佐野心。写真見せたけど、ビンゴだもん」
相川は眉を上げて笑った。いい加減、その名前が腹立たしく思う。馬鹿にしているのか、若しくは本当にそういう名前なのか。
「で、相変わらず、足取りは掴めないんだろ?」
「橘があちこちの防犯カメラハッキングして、超調べまくってるけど、多分、出ないね」
崎山は唇を噛んで宙を睨んだ。全く、行動が読めない。2千万もの大金を使ってやったことは、力の差が歴然である半端者の、仁流会への襲撃。結果、連中は捕まり金は無駄になった。
だが2千万をどぶに捨てたおかげで、自分はノーリスクで済んでいるのも明らかだ。リスクを負わないために、ガキを寄せ集めて使ったのか?
考えれば考える程、分からなくなった。
「…ん?」
崎山がふと顔を上げ、部屋の入り口に目をやった。相川も立ち上がり、そちらを見る。
何やら騒がしい。我鳴り声が聞こえ、それがどんどんと近づいてくる。相川は首を傾げ、ドアに近づくとゆっくりと開いた。
「あらま、お久しって感じじゃね?俺、あんたに逢うの、超久々って感じ?」
相川は崎山に視線を送りながらドアを大きく開いた。開いたドアの向こうに居たのは、やはりというべきか及川だ。
その後ろでは舎弟連中が今にも及川に掴み掛からん勢いで居たが、相川はそれを手で追い払った。舎弟連中は渋々という感じで頭を下げて、及川を見送った。
それを見た及川は口元を歪めて笑い、部屋に入りグルッと周りを見渡した。崎山はその異国色の強い双眸を見て大きく息を吐くと、デスクチェアに腰掛けた。
「すげぇな、てめーらは。吹っ飛ばされたとこ、もう跡形なく綺麗に片付けられてるんだもんな」
及川は笑いながら、当たり前のようにソファに腰を下ろした。そのタイミングでまた一人、部屋に姿を現す。杉山だ。
杉山が居るのならまだマシかと崎山は思ったが、だが今は客人をもてなせるほど余裕はない。どちらにして、歓迎出来る客ではないことは確かだ。
「及川さんだけならまだしも、杉山さんが居るのにどうしてアポなしで来るんですか」
「アポなんか取っても、お前らは逢ってくれないでしょうが」
杉山は及川の隣に腰を下ろして、両手を広げてみせた。
「ここには何度か入った事あるような気がするけど、すっかり変わったなぁ。近いうちに本家に招待してくれてもいいよ?」
「杉山さんが定年したときで良ければね。ところで何か御用ですか?」
「用がないと来ないよ」
杉山は徐に手に持っていた封筒を掲げて笑った。それを見て相川も渋々、崎山の隣に腰を下ろした。
「お前らさぁ、ヤバいんじゃねぇのって言っただろ?」
及川が不敵に笑うと、崎山はそれを睨みつけた。何だか毛艶の良い猫の睨み合いを見てる感じがするなと相川は思いながら、杉山を見た。
この二人は放っておきましょうとでも言わんばかりの相川に、杉山は嘆息して封筒の中身を取り出しテーブルに並べだした。
「うげぇ、やめてくんねぇ?ここでそんなおげれつなもん見せるの」
相川は舌を出して顔を逸らし、手で追い払うようにした。
そこに並べられたのは、男の他殺体の写真だったのだ。どれも別人のようで、だが、どれも濁った目でこちらを睨みつけていた。
「共通点、あるだろ?」
及川がテーブルを叩くと、相川は首を傾げた。
「男?」
「お前はやっぱり馬鹿だな」
「はー?何それ、超失礼じゃね?大体さー、急に来て、こんな胸くそ悪い写真並べて共通点は何でしょうって、クイズかよ!正解者にはハワイ旅行でもくれるわけ?」
「はっ、似てるって言いたいのか」
崎山は呆れた顔で及川達を見ると、足を組んでソファの背凭れに背中を預けた。馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの顔だ。
「え?似てるって?誰に?えーマジで?誰に??」
「ね、似てるからって、何がいいたいの?」
崎山は相川を無視して杉山を睨むと、杉山は眉を上げた。
「まぁ、怒るなって。うちに送られて来る例の写真な、カウントダウンが始まったんだよ」
「カウントダウン?」
「そう、えーっと何語だっけ」
「ヘブライ語」
「そうそう、ヘブライ語で写真に数字が書かれるようになってな。それが減ってきてるわけ。で、それと同じく、このそっくりさんの死体が転がるようになったと。因に、これで全部とは言い切れないが分かっているだけで、そっくりさんの死体は10人目だ」
「10人目?」
「因に、カウントダウンのスタートは13」
杉山がそう言うと、相川は息を呑んだ。
これ、本格的にヤベェんじゃ…と思いつつ、それを顔に出した瞬間に自分の命が終わると、隣で殺気立つ崎山の様子を窺った。
「ただ似てるとか、そういう曖昧な情報で捜査すんの?警察って」
崎山は、馬鹿じゃないと鼻で笑った。
「いや、共通点はそれだけじゃない。この被害者全員がブラックカースっていう、ふざけた名前のチームに入ってる」
ええええ!!と叫んで立ち上がらなかっただけ、褒めてほしい。相川は鼓動の早くなる心臓を落ち着かせようと、ゆっくりと息を大きく吐いた。
「知らねぇとは言わせねぇぞ」
及川が嫌な笑みを零して相川を見る。バレた!!絶対にバレた!と思いながら、視線をゆっくりと杉山に移した。
「で、結局、何をしにきたの?ブラックカースっていう連中は、確かにうちにちょっかいはかけてきてるけど、所詮はチーマー連中じゃない。極道ものならまだしも、そんな連中を俺らが本気で相手してるとでも?」
「いや、それはないだろう」
「心を寄越しな」
杉山が丁寧に話す横から及川に薮から棒に言われ、崎山の顔色が変わった。その殺気を相川は感じ、心なしか少しだけ離れる。
「ね、馬鹿なの?」
「もう、お前は言い方ってあるでしょうよ。崎山、いいか、今回は本気で心を狙ってる連中が居るってことだ。こんな挑戦状を送りつけてくるような連中だぞ?しかも、この写真を送って来てるのはブラックカースじゃない。まだ他に誰かが居るってことだ。うちとしても、まだ鬼塚に死なれては困る。もう極道戦争なんかする時代じゃないことくらい、お前も分かるだろう」
「ね、杉山さん。杉山さんの言う事は分かるよ。分かるけど、どうしてそれで、うちがあんたらクソに大事な長を預けないといけないの?大体、極道を護る警察ってなに」
崎山の口調が汚くなってきた。これはいよいよ堪忍袋の緒が切れる時かもしれないと、相川は杉山に止めろと視線を送ったが、杉山も及川を止めるのは無理だと首を振った。
「パクらせろって言ってんの。容疑はなんでもいいや。勾留期限はこのカウントダウンが最終章を迎えるまで。それまでうちの最高級ホテルと言われる留置所で拘束しておいてやるっていう、善意の心を簡単に蹴るんじゃねぇよ」
及川はそう言うと、口角を上げて不敵に笑った。
「え、ちょっと。ないない。それはないでしょ。えー、パクる?ハッ、パクったら最後、お前らは組長を出すつもりないじゃん」
護る口実で何かしら理由をつけて、心をぶち込むに決まっている。法を遵守しなければいけない立場の人間は、それに都合のいい嘘を心得ているのだ。
相川はさすがに冗談じゃないと、首を振った。
「でもな。崎山…」
杉山が言葉を続けようとした、その時、崎山はテーブルに拳を突き立てた。ガンッと大きな音がして、テーブルの上の写真が小さく踊った。
「鬼塚組舐めんな。てめぇらクソに頼らなけりゃいけないほど、戦力は落ちてないぜ」
崎山が杉山達を睨みつけると、杉山は一巡して、わかったと頷いた。
「まぁ、極道の沽券にかかわるわな。サツに護ってもらうような大将は。ただ、これだけは言えるぞ。カウントダウンはもう終わる。絶対に、何か起こる」
「それって、あれっすか。刑事の勘」
相川が指を鳴らすと、崎山が我慢の限界と相川の頭を拳で殴りつけた。さすがに、星が飛んだ。
「正攻法で行こうとするから、断られるんでしょ」
覆面車の助手席に及川は乗り込むと、文句を言うかの如く杉山を睨んだ。
「あのなぁ…。そもそも、心が分かりましたって出て来ると本気で思ってんのか?」
「いや、それはないね」
断言するなら言うなよと、杉山はエンジンスイッチを押した。チラリ、先ほど出て来たビルの入り口に目を向けると、まるで親の仇のようにこちらを睨みつける舎弟連中と目が合った。
あれだけの強者が揃っているのだから、何が起こっても大丈夫だろうとは思う。だがもしものことがあったときだ。
もし、心が命を落とす事となれば、仁流会の均等は崩壊する。そうなれば、第二の極道戦争になるのは目に見えている。だが今は極道戦争が出来る時代ではない。
杉山達、警察からすれば一気に極道の重鎮でもある鬼塚組を叩き潰すチャンスではあるが、しかし、零れ落ちたこの破落戸の行く末はどうか。居場所のない、自分の持て余す力を抑えきれない者達が集い、ようやく見つけた活路を潰すのは是か非か。
「消えてほしい存在の連中なのに、消えたら消えたで世の中のバランスが悪くなるんだから、不思議だよな」
「いや、消えたら困るよ。俺は。楽しみなくなっちゃうじゃない」
及川が珍しく真剣に言うので、お前はいっそ、あっち側に再就職したらどうだと杉山は肩を落とした。
「とりあえず、ブラックカースの連中片っ端から取っ捕まえてみるか」
杉山はそう言うと、アクセルを踏み込んだ。
仄暗い部屋の中、白い背中に汗の雫が宝石のように散らばる。その宝石を舌で掬い、心は欲情した獣のような目で組み敷く静の背中を見下ろした。
「あぁ…、あ……あ……!っ…、や…、だぁぁぁ…」
ぐちゅぐちゅと淫猥な音を響かせ、心の剛直を飲み込むそこは赤く色づき必死にそれに喰らい付いてくる。ぎゅーっと締まるそれに息を詰め、だが満足したように腰を乱暴に穿つと、静が啼いた。
「つよ…っ、い……!っ…てぇ!!…あ…ああ、ああっ…あ…!」
「こっちの方が、ええやろう」
「よく……っ!、な…ぁ…あ…ああぁあ!」
奥を突けば静の雄からは濃い蜜が零れ落ちる。触らずとも、それは快感を得ることが出来、ふるふると震えながらシーツを汚した。
はぁはぁと獣のように息を荒げ、強い快感から逃げるためにシーツを必死に掴むと、両腕を掴まれ後ろに引っ張られた。
「あぁ…!!!心……!い…ぃ……や…あっ!ッ…!…だ…あ…ぁ……!…!!」
ぱんぱんと肌がぶつかる音がするが、そんなこと気にならない程に強い快感に支配される。ふっと右腕を離され、崩れそうになった身体の顎の部分を掴まれ乱暴に唇を奪われた。
口の中を蹂躙され、身体の奥底を暴かれる。心の舌が静の上顎を抉るようにして舐め、最奥を強く突かれたとき、静は爆ぜた。
「ふうぅっ!!んっ、ん…!…」
一気に力が抜け、身体が落ちる。身体が落ちた事で心が静の中からずるっと抜け、そこに虚無感を感じ震えた。
心は静の身体を仰向けにすると、つんと尖った真っ赤な乳首に舌を這わせた。
「あ……あ、やああ…ぁぁ…っ…!」
達したことで敏感になっている静の抵抗を無視して、そこを執拗に舐め小さく噛むと冷めきらない熱が静の雄から溢れた。
心は静のしなやかな足を持ち上げると、間に入り込み熱り立つ剛直を静の慎ましやかな蕾に押し当てた。
「無理…、もう、無理」
「アホか、俺はまだ達ってへん」
静の抵抗を無視して腰を進めると、そこは口を開いて心を迎え入れた。まるで吸い込むように飲み込み、咀嚼するそれに心は舌なめずりをした。
抱えた足の内太腿に口づけて、赤い花を咲かす。ゆっくりと腰を動かせば、静は弱々しく腕を伸ばして心の鍛えられた腹を指の腹で撫でた。
「お前って、ほんま…」
俺の身体好きやなと、言葉にはせず笑いベッドを軋ます。ちゅぷちゅぷと濡れた音が響き、静は堪らず首を振った。
「ああ…、あ!ああ、もぉ…!…出……な…ぁああ!あぁ…っ」
中の快感の芽を抉ると、堪えられないとばかりに静が腰を浮かせた。逃げているのかと思いきや、自分でも当てて来ているのに静は気が付いていない。
腰を浮かし、喉を曝し快感に息を荒くする。心はその姿に満足して、より一層、強くそこを擦り上げた。
「は……ぁあっっ…、ああ、ぁ、やぁぁ…ぁ…ぁ!だあ…!」
「あー、くそっ」
もう限界と心は静の腰を掴むと、快感だけを求めて乱暴に腰を振った。奥を突き、こりこりとした芽を己の雄で擦りあげれば静の内壁は異常なまでの煽動をして心を快感に落とす。
歯を食いしばりながらそれを堪能して、一番昂いところにきたとき静の中に欲望を思う存分吐き出した。
焼けるような熱を感じながら、静は脳天まで一気に痺れるような感覚に溺れ身体を震わせた。
声にならない声の代わりに、瞳から涙が溢れた。だが、そのペニスからは吐き出されるものはなく、それでも凄まじい快感の坩堝に落とされた静の足は何度も宙を蹴って震え、悦楽に酔いしれた。
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