37 / 67
第37話
「そのまま、舌絡めて」
頬を撫でながら要求してくる心を睨んで、言う通りに舌を絡めた。舌を絡めて、ゆっくりと顔を上下させると心の内太腿が震えたのが分かった。
荒い息も熱の塊のようなこれも、自分の愛撫でそうなっていると思うともっと良くしてやりたいと思うのは男の性か。
「静、こっち」
必死になる静の細い足首を掴むと、軽々と持ち上げて自分の方へ引き寄せる。ぐるっと身体が回転させられて、噛みつきそうになったので口を離した。
「何、噛むぞ」
「あほか、どんな暴力やねん」
ご機嫌な心は静のジーンズのボタンを外すと、そのままアンダーウェアごと引きずり下ろした。下半身が露わになったことで羞恥が増し、静は慌てて起き上がった。
「ちょっ!!」
「お前はこっち」
顎に指をかけられて、今まで愛撫していた心の雄に導かれる。これって…。
「いや、ないだろ」
所謂、69という体位ではないのかと広いソファの上で身を捩った。
「静がやる気になってるんやったら、俺もそれなりの対応をみせなあかんやろ」
そう言って、チュッと少し育ったペニスに口付けされ腰が跳ねた。レロッと舌を這わされ、これは負けてはいられないと訳の分からない対抗心から愛撫を再開する。
だが、やはりテクニックというか舌使いというかは心の方が断然格上な訳で、静は堪らず口を離して小さく声を漏らした。
「あ、や…む、り…」
「堪え性のない」
心は愉快そうに笑うと指を濡らして、慎ましやかに閉じた蕾をこじ開け始めた。
「ま、まって…ッ!」
静の静止を心が聞くわけもなく、構わず指を押し進めた。
「うわっ…!!!」
どうしても初めの異物感が慣れずに声をあげた。だが到底、自分では弄ることは一生ないであろう場所に心の長い指が到着すると、素直な身体はそれに反応し蕾を開いた。
「もう終いか?」
そう言われ心を睨み付けると、凶器のように育ったそれに舌を這わせた。だが、その間も指は増やされペニスは咥えられ、静は心への愛撫も忘れその快感に溺れていた。
「あ、はっ!!あ、やだ、あああッツ、ま、まって…!」
ぐちゅぐちゅと中を弄る淫猥な音色もスパイスとなり、静の脳は淫楽に耽る羞恥心よりも飲み込まれ身体を委ねることだけに集中していた。
とうに限界を超えていた静は、心が蜜壺の中の一番弱い部分を指で押し潰すようにすると身体を震わせて心の口腔内に蜜を吐き出した。
「はぁぁ、あっ……あぁ…!い、やぁ…ッ!、やぁ…だ……ぁ…ぁ…っ…」
意識の飛びそうなエクスタシーに襲われているのに、心は達したことで敏感になったペニスを吸う。それから逃げようと踠いていると、満足したのか口を離して起き上がった。
「まず…」
「はぁ、あ…じゃ、あ、飲むなよ…」
ごもっともと心は笑ってクタクタになった静の身体を抱き上げると、育ちすぎた雄を蕾に押し当てゆっくりと中に入り込んできた。
静は凶暴な肉棒を飲み込むために大きく息を吐きながら、心の首に腕を回した。
「で、かい…」
「そりゃ、どうも」
「褒めてない…」
ようやく全て飲み込んでも、腹の中の異物感は初めは不快でしかない。そもそも、そのための器官ではないのだから当然かもしれない。
「なぁ…動いて、いい?」
「明日は嵐ちゃうんか」
次から次と、おかしなことをと心が汗で濡れた静の前髪を指先で掻き分けた。
心の強い目が好きだ。獰猛さがあり強さがあり、決して怯むことのない目が好きだ。雄弁に語らない唇も、高くて形のいい鼻も全部…。
好きだよと言葉にせずに、口付けて思いを伝える。それに応えるように心がゆっくりと腰を動かし始めた。
「あぁ…あ、はぁぁあ…、あーー…、心……、心……ッ……!」
こんな行為が死ぬほど気持ちが良いなんて、おかしな話だ。大多喜組に関わっていた時なら、絶対に思いもしなかったこと。
それが今では、本当は自分はこうされるのが好きだったんじゃないのかと誤解しそうなくらいに気持ちがいい。中に熱を感じることで恍惚感に浸る。
腰を回して自分の良いところに心の肉棒を当てて、身体を逸らして快感に悦ぶ。足を拡げて、繋がるところも全部曝して、それに興奮している心の顔に欲情する。
全部、心に変えられた。身体も心も何もかも。だがそれが不快でもなく、そして後悔もない。
「あ……、だめ…ッ…、い…くぅ……っ…いくッ…うぅ!、あ…ああ!あ…」
快感を追うのに身体が付いていかずに静は心に抱きついた。心はそんな静の身体を抱き締めると、下から激しく再奥を突き始めた。
「う…ッ!あ…ああ!!し、心…!あぁ…ぁあ…ああ!!つよっ、強い…ッ…!」
ガクガクと揺さぶられながら、どんどんと中に居る心を締め付けていく。限界の高みを目指して、何も考えずにいると脳が痺れるような感覚に陥った。
「あ…ぁ…あ…ぁ、あ…あ!ああぁ…っ…!」
「静…っ!」
最後、一際強く突かれると、中に拡がる熱。それに安堵するように静は息を吐いた…。
それからシャワーを浴びて戯れ合いながらベッドに転がり、また心を求めた。さすがに妙な顔をされたが、悪い気はしなかったようで心の愛撫に溺れた。
静は心の熱を感じながら、その熱を忘れまいと必死にしがみついた。
その日は今にも雨が降りそうな曇天で、大阪府警の受付に座る警察官は帰りは確実に雨だなと思っていた。
夜勤明けくらい晴れれば良いのにと思っていると、どうも入り口が騒々しい。免許の更新やその他の相談や受付を担う上に、警察署というところは基本的に人の出入りは自由だ。
なので警察官以外、即ち一般市民の往来も激しいところではあるが、それとは違う騒々しさに首を伸ばした。そして、その根源を見た瞬間に思わず立ち上がり、他の警察官と共に駆け出していた。
「ダメですね」
崎山は溜息と共に言葉を漏らすと、凝り固まった身体を解すように首を回した。
大阪市内にある総合病院のある部屋で、相馬は崎山と顔を突き合わせていた。テーブルには風間組が襲撃に遭った時の写真が並べられていて、崎山はPCで防犯カメラを見ながら苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「防犯カメラ、使えないやつばっかですね」
崎山はPCを閉じると舌を鳴らした。相馬の前ということも忘れている時点で、相当、苛立っているようだ。
相馬は写真を集めて整えると、指先で唇を撫でた。
「まさか、乗り込んで来て襲撃されるとは思っていなかったんだろうね。しかも本部にだ」
「それって、甘いですよね」
「まぁ、そうだね」
言っていると、ドアがノックされ橘が顔を出した。大きな身体を無理に曲げるようにして部屋に入ると、バツの悪そうな橘に相馬は首を傾げた。
「すいません、来客です」
「は?ここにか?」
崎山が橘を睨み付けると、橘は慌てて相馬の顔を見た。相馬はそれに眉を上げると、テーブルの隅に置いてあったA4サイズの封筒に写真を放り込んで近くにあったゴミ箱に投げ入れた。
「ね、誰?まさか、及川じゃないよね?」
「いえ、大阪府警の方です」
「ああ、府警の方か。いいよ。通して」
相馬がそう言うと、橘が頭を下げ扉を開いた。すると、厳しい顔つきの男が3人入ってきて、相馬は眉を上げた。
「宮川警部じゃないですか」
「久しぶりやの、相馬とー、崎山やったっけな。年いくと物忘れ酷いからあかんわ」
宮川はそう言うと、開いている席に勝手に腰を下ろした。
その後ろでは職業を間違えているような人相の悪い男と、顔立ちはいいが目つきの悪い男が相馬たちを蔑視していた。
「そちらのお二人は?」
「ああ、こっちが韮澤でこっちが仁見」
簡単な紹介はされたものの、仁見という刑事に至っては嫌悪感を隠す気は一切ないらしい。好かれるような生業じゃないとしても、ここまで侮蔑されるのは久々だなと相馬は笑った。
「ところで何か?と聞くのも野暮ですか」
「そうやな。ちょこちょここっちには来とったみたいやけど、お前らに手ぇ出すと警視庁の異色警視様が憤慨なさるからなぁ。ちゅうても今回は別や。なんせ、風間が殺られてもうてんから」
「いやいや、ご存命ですよ。残念ながら」
「せやったな。こりゃ失敬。でな、風間を殺ったアホが自首してきよってな」
宮川の言葉に崎山が腰を上げた。それに宮川は笑い、まだまだ若いなと相馬に言った。
「鉄砲玉ってやつですか?まさか、本ボシとでも思っているんですか?」
「そりゃあ風間組にも梶原にも遺恨ある相手やからなぁ。誰やと思う?河嶋や」
「河嶋?興和会組長だった?」
「そうそう。風間がぶっ潰した佐渡の部下で仁流会の副理事…今は副理事ちゅうんはおらんのか?まぁ、その河嶋や。可哀想に、ようやく娑婆に出て来たら、佐渡組がのうなってもうてて興和会も廃業。もともと河嶋はイケイケな男で、懲役食ろうてたんも敵対組織の組長への傷害やったしな。風間を狙うんも当然やろ」
「河嶋が出所していたのは知っていましたが、風間組を襲撃…。河嶋の単独犯ですか?」
「いや、何人か一緒に仲良ううちの正面玄関から遊びに来てくれたわ。おかげで朝から大騒ぎやしな」
「そうですか、それは見てみたかったですね」
「アホか。はー、しかしお前らヤクザもんは、いつから正面切って戦争出来ひん奴らに成り下がったんやろうな。スミ入れてヤッパ振り回して、力関係がハッキリしとるほうがシンプルで俺らもやり易かったもんを」
宮川は時代なのかねと年寄り臭いことを言って、白い物が混じった髪を撫でた。
「地下でしか生きれない人間が居るのに、その術を奪おうとするから、その跳ねっ返りが来るんでしょう?暴対法なんて、見つからないように奥底に隠れなさいと忠告しているようなものじゃないですか。表側の人間に生きる場所が必要なように、裏側の人間にも生きる場所は必要なんですよ?」
「お前と話しとったら、何や説教食ろうてる気がするわ」
「説教はしていませんが、私が知りたいのは一つです。梶原はどこにいるんでしょうね」
相馬はにっこり笑うと長い足を組んだ。宮川はそれを見ると肩を落とした。
「梶原なぁ…。風間と数人の部下が瀕死の状態で見つかって、現場から梶原だけがおらんようになっとったもんなぁ」
「和歌山の海に、魚の餌として蒔いたんやってよ」
宮川が言う前に仁見が口角を上げて笑った。それに崎山が立ち上がったが、相馬がそれを手を上げて制した。
「あんな潮の荒れ狂った日に投げ捨てられたら、肉片の一個も見付からねぇよな。ざまぁ」
「仁見ー、黙れ、もう」
宮川が手で追い払う様な仕草を見せると、隣の韮沢が仁見を睨むようにして顔を顰めた。それを見た仁見は、笑って戯けてみせるだけだった。
「一応な、探すのは探すけど大シケの時に投げ込んだらしいわ。まぁ、仁見が言う様に肉片の一個も残したなかったいうこっちゃ。梶原と河嶋はもともと反りが合わん同士やったし、河嶋がワッパかけられたんも、梶原のタレコミのせいやっていう噂もあったくらいやったしな」
「信用するんですか?」
「梶原の遺留品もあるわ、梶原のDNAのついた凶器は持っとるわ…。それから風間のDNAも出るわ。あとは可能性は低いけど、肉片が見付かったら終わりや」
宮川はそう言うと、相馬の肩を叩いて立ち上がった。
「興和会はもうあらへん。御礼参りするような場所もあらへん。仁流会かて、無用な動きするときやあらへんて分かっとるやろ。今は明神組の周辺かてキナ臭い動き見せとる。番犬があんな状態じゃあ、どうも出来ひんやろ。ええか、今は極道同士が戦争するような時代やあらへんぞ。それはお前のとこの組長にも、よぉ言い聞かせぇよ」
宮川はそう言うと、行くぞと言って部屋を出ていった。だが、最後に部屋から出て行こうとした仁見の腕を素早く椅子から立ち上がった崎山が掴み、ドアに押し付けた。
その反動でドアが閉まり、外では韮澤の怒声が響いた。
「ね、舐めての?」
「ああ!?なんやねん!?離せボケ!!」
首元を腕で押さえつけられ呼吸が遮られる。華奢に見える崎山の腕を掴んだが、鍛え上げられた硬さに驚いた。
「ん?個人的恨みか?それとも同族嫌悪か?俺さ、お前みたいに自分では何も出来ないような男、死ぬほど嫌いなんだよね」
「なんやと!!…いてぇ!!離せ!!」
「ね、お前に何ができるの?」
崎山は仁見の腕を離すと、両手を広げて妖艶に笑った。
仁見はすぐに手を伸ばして崎山の胸ぐらを掴もうとしたが、その腕を捕まれた挙句、足を掬われ地面に転がされた。
「痛ぁーい…ってね?俺、強くてごめんねー。ああ、ね?ほら、お得意の公務執行妨害で逮捕すれば?」
「くっ!てめぇ!!!」
「そこまで!!!!」
ドアを開けた宮川が叫び、仁見が唇を噛んで床を殴った。それに崎山が笑い、ざまぁと仁見の耳元で囁いた。
「お前!!!」
「韮澤!連れて行け!!」
崎山に飛びかからん勢いの仁見を韮澤が抑えつけ、部屋から引き摺り出す。それに宮川が大きく項垂れた。
「相馬ぁ、お前も見てたらな止めろや」
「あぁ、すいません。考え事をしてました」
相馬がニッコリ笑えば、宮川はもういいと手を振ってドアを閉めた。崎山は相馬を見て頭を下げたが、相馬はにっこりと微笑むだけだった。
「河嶋が一人でここまでのことを?お前、河嶋と面識は?」
「河嶋が居た頃は俺はチンピラだったんで、直接の面識はありません。ただ、使えない狂犬であったことは確かです。そのせいで梶原さんとの間に軋轢があったことは有名な話でした。山瀬さんにも睨まれていましたし…。まぁ、あの時期に勝手なことしてぶち込まれるっていうのが、もう使えない証拠です」
「河嶋ねぇ…風間の件とうちの件は関係がないってことか?いや、それにしてはタイミングが良すぎだな」
「裏で動いてる奴が絶対にいます。このタイミングがただの偶然だなんて、俺は認めません」
崎山の強い言葉に、相馬は頷いた。
ともだちにシェアしよう!