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第39話
泣きじゃくり、狼狽える静は相馬に抱えられるようにして病院の一室に連れてこられた。ソファに座らされ、大丈夫だと気持ちを落ち着かせるための言葉をかけられても、静の動揺は抑えきれなかった。
相馬はそんな静を一人にしておけないと、少しのあいだ部屋に一緒に居たが、しばらくすると呼ばれて出て行ってしまった。
泣きすぎて頭が痛い。こんなこと、子供のとき以来じゃないだろうかと思いながら部屋を見渡した。
窓際には静の座る二人掛けのソファが向かい合うように二つ並び、その間にはテーブルが置いてある。入ってすぐ右手には、真っ暗な画面のデスクトップのパソコンが置かれた机と椅子。そこまで広くない部屋は、それで一杯になっていた。
壁にかかるシンプルな時計を見て、あれから相当な時間が経っているんだと思った。
あれから、心が斬られたあの時から…。
仁流会NO.2である心。静は心のどこかであの男は不死身だと思っていた。身体の強さ、戦いの強さ、気持ちの強さ。
生まれて初めて出逢った、最強な男だったのだ。それが、たった一太刀で…。
「くそ…」
静は悪態をついて立ち上がり、また座る。部屋の壁に掛けられた時計の秒針を刻む音が煩わしく、それを睨みつけた。
時を刻む秒針を見ながら、ポタポタと滴る血を思い出した。車のシートからも滴り落ちるような出血の量だった。
あれだけ出血して助かるのか?そんな不安が頭を過ぎり、そして水に濡れ冷たくなった父親の顔が脳裏に過ぎった。
それを慌てて消し去るように頭を振って、痛いくらいに拳を握った。
「ダメだ、そんなの…違う。どうして…俺…」
どうしていいと言ったのか、どうしてこんなことになったのか。どうして…。
ふと握った拳を見ると、血が出ていた。どこか切ったか?いや、違う…心の血だ。その乾いた赤黒い血の痕を見て、静の視界が歪んだ。
もし、もし心が死んだらどうすればいい?と、その恐怖に吐き気がした。
すると、廊下を走る慌ただしい靴音に顔をあげた。靴音はやはり部屋の前で止まり、勢いよくドアが開いた。
崎山と雨宮だ。二人は血で汚れた静の服を見て、顔を青ざめさせた。その顔を見て、静はすぐに足元に視線を戻した。
二人の顔が見れない。雨宮に嘘をつき、結果、このザマだ。勝手をしたなんて言葉じゃ済まされないようなことだ。
それに何と言っていいのか、謝るにしても何と謝ればいいのか…。思わず押し黙ってしまったが、だがそれではダメだと立ち上がって二人の側まで行くと頭を下げた。
「ご、ごめんなさい…本当に、ごめんなさい!」
そうとしか言えなかった。静が心の話に乗らなければ、こんなことになっていなかったのだ。
頭を下げて謝罪の言葉を繰り返す静に、崎山が奥歯をギリギリと噛み締めた。
「ごめんなさいで…それで済む話だと思ってんのか!!」
崎山に怒鳴られ、身体が震えた。だが、静はひたすら謝るしかなかった。
その静に苛立ったのか、崎山が静の胸ぐらを掴むと頬を打ったのだ。
「崎山さん!!!」
雨宮が壁に叩きつけられた静を抱き起こすと、また胸ぐらを捕まれ、そのまま壁に押し付けられた。
静を睨む崎山の目は、怒りで鋭さを増していた。
「お前!!これで組長が死んだら、死んだら…!!お前は、どう責任取るつもりなんだよ!!」
「崎山さん!!!」
「俺だって…!!俺だってどうしていいのか分かんねぇよ!!目の前でいきなり切りつけられて、どうしていいのか、俺だって!!!」
「てめぇ…!!!」
「崎山」
呼ばれ振り返ると、相馬だった。崎山は静の胸ぐらを掴む手を乱暴に離して、くそっと声をあげた。
それでも苛立ちが抑えきれないのか、静が座っていたソファを思い切り蹴飛ばした。
「大丈夫ですか?静さん」
静は小さく頷いた。相馬は心の血で染まった静の手を取ると、それを拭うように指を滑らせた。
「洗わないと落ちませんね…。静さん、少しいいですか?」
相馬は静の手を引いてソファに座らすと、その隣に腰掛けた。
「公園で切られたのは分かりました。血痕もあったので、確認も取れました。ですがね、あそこの公園付近は今の時代に珍しく、防犯カメラがあまりないんです。もしかしたら、犯人はそれを見越していたのかもしれない。なので正直、情報が足りないんです。犯人を見ましたか?」
犯人…と静は相馬の顔を見た。静の方へ向かって来た男…、そう、あの男はー。
「ふ、フードの男…だった」
静のそれに崎山と雨宮が小さく反応を見せた。相馬はにっこり微笑んで、しっかり頷いた。
「静さんはフードの男を一番見ていると思うんです。特徴とか、何でもいいんです。覚えていることはありますか?」
「覚えて…」
言われ、必死に記憶を手繰り寄せる。鷹千穗と居た公園で見たとき、そして心を斬りつけた後に見たとき…。
「身長は雨宮さんと同じくらい…体型も、同じくらい。初めは外国人だと思ったんだ。髪の毛の色がブロンドだったから…。でも、今思うと…カツラとかだったのかも。前に見たときは、髪はそうじゃなかったと思う。それで…公園で待ち合わせしてたんだけど、俺が着いた時、心は男に話しかけられてて…。俺、地図が見えたから道を聞かれてるって思ったんだ」
「顔は見ましたか?」
「顔…顔、俺…見てない。何でだ…?あ、サングラス…ラウンドフレームのサングラスしてた」
「それでよく、フードの男と分かりましたね」
「口元…口元が…」
印象的だった…?いや、フードを被って現れた時も目元は見えなかった。いつも口元だけしか見せてない。特別、口元が印象的だった訳でもない。
だが、あれは間違いなくフードの男だった。でも、どうして確証が持てるんだ?
静が消化不良のような、靄のかかった男の顔に唇を噛むと同時に塩谷がノックもなしに部屋に入ってきた。
疲労感の見える塩谷に全員が息を飲んだ。塩谷は全員の顔を見渡すと、小さく息を吐いた。
「ダメだ、このままじゃあ保たねぇ」
「ね、ちょっと待ってよ。保たないってどういうこと?」
崎山の声が震えているような気がした。すぐに相馬が立ち上がり、塩谷の方へ向かった。
「傷が深い上に出血量が多すぎる。自己血も限られている以上、どうにもならねぇんだよ」
塩谷が言うや否や、相馬が塩谷の胸ぐらを掴んだ。
「どうにもならねぇじゃねぇよ!?助けるんだよ、何が何でもな!身体が五体満足じゃなくても、死なしちゃいけねぇんだよ!!」
「じゃあ!!じゃあ、お前がどうにかしろ!!」
塩谷は相馬を突き放すと鋭い眼光で睨みつけた。
「何で外に出した!あれほど出すなって言っただろうが!血が足りねぇんだよ!自己血だけじゃ追いつかねぇ!お前だって、分かってたことだろう!?俺はブラック・ジャックじゃねぇ!!無理なもんは無理なんだよ!」
「血って、何型なんすか?足りないって。組の連中で同じ血液型の奴を集めるとかじゃ、ダメなんですか?」
雨宮が口を挟むと、塩谷が雨宮を睨みつけた。そして大きく息を吐くと、頭を乱暴に掻いた。
「集められる様な血じゃねぇんだよ!!心はなぁ…!あいつの血液型はボンベイ型だ!ボンベイ・ブラッドだよ!お前らの組長の引きこもりの原因は、これだよ!!」
愕然とした。塩谷の言葉にそこに居た全員が、言葉を失った。
ボンベイ・ブラッド。世界でも100万人に1人しかいないという、特殊な血液だ。
まさか、それが心の?静は涙を拭った。いつか、心が具合が悪そうに寝ていた時があった。血液検査をしたと言っていたが、あれは血を抜いてストックしていたのだ。
「怒ってる?」
ハンドルを握る雨宮を見ると、雨宮は首を振った。
手術こそはしたものの、大量出血のせいで心はICUに入り危篤状態だった。彪鷹も未だに目を覚ますことはないし、風間組も同じ様に組長が倒れいている。
次から次へと起こる不測の事態に、仁流会が揺らいでいるのだ。
そしていつまでも病院に居ても仕方がないと、静と雨宮は崎山に追い出された。
「賭けに出ねぇか?」
「…賭け?」
「実は、一人だけ組長と同じ血液型の人間を知ってる」
「え!?本当!?誰!?」
運転中の雨宮に身体を乗り出すようにして聞くと、そのままヘッドロックされてシートに戻された。
「知ってるつうだけ。まぁ、99%の確率で協力はしてもらえないと思う」
「…え、そんな」
「だから、1%に賭けてみるかってこと。まぁ、今、勝手な動きしたら、俺もお前もビンタくらいじゃ済まないけどな」
雨宮は苦笑いをしたが、静は迷うことなく頷いた。
「どうして言ってくれなかったのかっていう顔だな」
二人きりになった部屋で、半ば放心状態のような顔でソファに座る崎山に相馬が声を掛けると、崎山は何かを言おうとして口を閉ざした。
「どうせ、お前と二人きりだ。何でも言ってくれて構わないよ」
相馬は崎山の向かいに腰を下ろすとネクタイを解き、テーブルに滑らせた。崎山はそれを見て、決心したように顔を上げた。
「俺らを信用…してなかったということですか?」
崎山の問いかけに、相馬は少し考える素振りを見せた。
「そうだなぁ…信用してないというのではないな。反対に俺らは信用されるのか、俺らに付いてくる奴は居るのかっていう方だな」
「え…?」
相馬はソファに凭れるようにして身体を預けると、テーブルに両脚を乗せた。そしてシャツのボタンを二つほど外すと、天井を仰ぎ見るようにして長い息を吐いた。
いつもの高潔で品のある相馬とは思えないほど、粗野な振る舞いだ。一人称まで変わっている。それほどに疲弊しているのかと、崎山は思った。
「心の身体のことを黙っていようと提案したのは、俺だ」
「え?」
「ボンベイ型だと知っているのは、俺と主治医の塩谷、そして彪鷹さん…。あとは俺の父と山瀬さんだけだ」
「え?先代は?」
「知らずに亡くなられた。もし知っておられたら、鬼塚 心はここには居ない。鬼塚氏のことは、俺よりもお前の方が知ってるだろ?」
「はい…」
名の通り、鬼だった。一切の情がないような男で、若頭の山瀬とは正反対の気質だった。もし心が特殊血液型と知っていれば、相馬の言う通り鬼塚 心はここには居ない。
自分にとって不利益になる人間の切り捨ては早く、それが原因で敵も多かった。幹部ではなかった崎山は言葉を交わしたこともなく、まさに雲の上のような存在だった。
覚えているのは、心と同じようにつまらなそうに煙草を燻らす後ろ姿…。
「ですが、知っていると言っても側近ではなかったので」
「何も、知らなかった?」
「いえ…。確かに、組長が逝去されてから息子が居ると聞かされた時は、俄かに信じられませんでした。その、組長は子供が出来ない身体だと聞いていたので」
「そうだ。正式な病名は無精子症。だから、子供は諦めていたそうだ。なので、彼女…心の母親が隠れて子供を産んだと聞いた時も、他所の男の子だと思っていたらしい。だが、彼女の性格を知っていた鬼塚氏は1%の可能性を捨てることが出来なかった。それで心を彼女から奪った」
「その、あまり詳しくは知らないんです。あの時は本当に組はパニック状態だったうえ、いきなり現れた息子の存在で…」
若頭も不在、その上、組長までもが急死。まるで呪われているような、そんな気さえした。
そんななか現れたのが心だ。それも、子供が出来ないと言われていた組長の息子と名乗り…。
「正直、疑心しかありませんでした。なので組長に就任されることになって、少し調べたくらいで…。母親から奪ったんですか?」
「そうだ。人攫いだよ、まさに。可愛げのない子供だったけど、やはり子供だ。母親から極道ルールで取り上げていいものではないからな」
「え?まさか…」
崎山は思わず腰を上げた。
「ああ、99%の確率で鬼塚氏の子だよ。それは間違いない。だけど、そのDNA検査の時にした健康診断で血液型のことを知った…」
「え?でも、先代は知らなかったんですよね?」
崎山がそう言うと、相馬はふっと小さく笑った。
「血液型のことを初めに知ったのは、俺の父だ」
「え?」
「お前も逢ったことあるだろ?鬼塚組の顧問弁護士だったからね。DNA検査で彼の子供であれば、鬼塚氏の嫡男として戸籍を動かさなければいけない。その関係で、あれのことは父が全てやっていたんだ。そこで、この特殊血液型のことを知った。父は迷ったそうだ。このことを鬼塚氏に告げるかどうか」
「迷うでしょうね」
「鬼塚氏は非情な男だ。なんせ、有無を言わせず母親から子供を人攫いのように取り上げていくような男だ。あの頃は仁流会も安定していなくて、常に小さな抗争が組内外で起こっているような状況だった。平成の極道戦争が終わったのに便乗して、鬼塚組内部も不穏な空気が漂っていた…。まぁ、これはお前の方がより詳しいと思うけど。なので、鬼塚氏が後継者として心を攫ってきたのかどうかは、明々白々…火を見るよりも明らかだった。欲しかったんだよ、自分の血が流れる分身が」
「分身…確かに、組長でありながら、あまり部下を信用しない方でした。山瀬さんでさえも、組長の本心を聞くのは難しいと…」
「そう、鬼塚氏は孤独だったんだ。その孤独な男に子供が居ることがわかった。まさに血を分けた我が子だ。だが、その分身に欠陥があると知ればどうなるか。父はそれで山瀬さんに相談したそうだ」
「え?山瀬さんに?」
「あの頃、組の中で信用出来る幹部というのが彼しかいなかったそうだ。そして、それを聞いた山瀬さんは先代に打診した。外で育てましょうと」
「それで、彪鷹さんですか」
「その頃は組の人間でありながら組での立ち位置も決まっていない、言うなれば裏鬼塚のような仕事をしていたらしい。だからお前も知らないし、誰も彪鷹さんを知らなかった。そんな彼に心を託す。組織に縛られたくないという、彪鷹さんに持ってこいだろ」
「佐野 心の出来上がりということですか」
「そう…。だがそうしているうちに、うちの父が恐れていることが起こった…」
「鬼塚組の内紛…ですね」
崎山が険しい表情を見せた。恐らく、崎山が一番思い出したくないことなのだろう。
「当時、山瀬派と氷室派で組が割れていた…だろ?組長のアキレス腱はどう考えても、心だ。親心というよりも、分身としてのアキレス腱だ。それを利用するために、心のことがどこでどう漏れ伝わるか分からない。心を攫いに行った時の舎弟連中が触れ回れば…そんなことを危惧した父は、山瀬さんに風間組長に心の存在を知らせておくべきだと打診した。山瀬さんもそれを考えていたようで、鬼塚氏に話し風間組長に心のことを話したんだ。そして鬼塚組の内部の動きがあまりいい状態じゃないことを知っていた風間組長は、年頃になった心を犬小屋に放り込んだ。これには父も山瀬さんも焦ったそうだ。今回同様、出血すれば命取りになる。今は塩谷が居るが、当時は心の身体のことを知る人間が居ないから自己血もストックしてなかった。だが、そんな心配も虚しいほどに佐野彪鷹に鍛え上げられていた心は、反対に犬小屋の裏で行われていた趣味の悪いパーティー会場を潰した…」
「ああ、それは噂には…」
組長に就任する前の心の動きは、ほぼ知られていない。その中でやった大事件の一つとして、風間組の梶原から少しだけ話は聞いていた。
「そして、鬼塚氏の急死だ。鬼塚組の内紛で幹部ポストは不在…。まぁ、ここもお前の方が詳しいか…」
「そうですね、あの時は…組は終わったと思いましたね。山瀬さんも居なくなったうえに、組長まで居なくなって」
組長の急死を聞かされたとき、誰もが組の行く末を案じた。いや、組の行く末というよりは、自分の身の振り方だろう。
組に居た誰もが、鬼塚組に未来はないと思ったのだ。
「そこで風間組長が担ぎ上げたのが心だ。正真正銘、成人式を迎えたばかりの青二才だ。それに引き摺り込まれたのが俺だ…。突然現れた自称息子と、鬼塚組顧問弁護士の息子。風当たりはきついなんてものじゃなかった。総スカン状態のなか、どうにか心が組を継ぐこととはなったものの全員の本心は見えなかったんだ。俺がお前なら、冗談じゃないと思うからね」
確かに…心を見た時は冗談だろと思った。若いというより、子供という感じだった。相馬も今よりも若く、二人を前にして誰もがどうしていいのか分からない状況だった。
「おっしゃる通り、気持ちは半々でした」
「ああ、それがほぼ全員の気持ちだったと思う。当然だと思うし、若い心を見て不安は生まれても期待は生まれない。そこに特殊血液型のことを言えば、益々、不信感しかなくなる。だから言わずに居た。そしたら、言うタイミングを失ったんだ」
騙すみたいで悪かったなと、相馬は笑った。
「いえ、判断は間違ってはいないと思います。俺が若頭の立場でも、恐らくそうしたと思います。必要以上の情報は、たとえ内部の人間でも与えるのは得策ではないと…」
心が来た頃は特に、組長の座を狙って誰もが腹の探り合いだった。古参連中にそんな情報を与えれば、忽ち…。
「あ…だから、わざと外出禁止に…」
「え?いや、あれはもとから」
「は?」
だって塩谷が引きこもりの原因はそれだって…。合点のいかないという崎山の顔を見て、相馬は肩を竦めた。
「俺は昔から心を知っているけど、あれは性格だよ。もともと無精なんだ、あれの人間性というか根本が根腐れしてるというか…。だから好都合だったんだ」
確かに、制限されているような窮屈感があるようには見えなかった。極端に外出を面倒くさがり、いつでも寝転がっている印象がある。
他人に興味がなさそうではあるが、先代に比べて仲間意識は強いように思えた。人を、大事にする男だと。
口数は少ないし、我儘だし得手勝手で…。だが、山瀬を亡くした時に諦めていたことを蘇らせてくれたのだ。この主人のために生きようと。
「もう、俺…俺、主人を失うのは嫌なんです」
崎山がぽつり、言葉を零した。
「……」
「先代は急に亡くなって、山瀬さんも…。これでまた組長まで亡くしたら…俺、家族も誰も守れないままなんて…嫌なんです」
崎山が絞り出すように言うと同時に、ノックもなしにドアが開いた。転がるように入り込んできたのは、相川だ。
「も、漏れました!マスコミに…ッ!風間組の襲撃と、うちの襲撃が!」
崎山が立ち上がり相馬を見ると、相馬はやれやれと肩を竦めた。
「うちを狙う連中が潰すなら今…ってなるかもなぁ」
警察も仁流会の襲撃は極道界の均衡を崩すことに成りかねないと、マスメディアへの情報提供は控えていたはずだ。
だが、それがいつまでも保つとは思ってはいなかったが、思っていたよりも早かった。
「どうしますか…。ここが割れるのも時間の問題ですよ」
「そうだな…」
心も彪鷹も動かせない状況で何かあれば、対応が出来るかどうか…。
「崎山は明神組に連絡を。風間組の身辺を守らせろ。うちは…そろそろ番犬を飼う時期かもしれないね」
相馬はそう言って、ゆっくりと立ち上がった。
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