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第3話
第二章
意識が浮かび上がる感覚がして目が覚めた。
そこは見覚えのない部屋だった。一目で質の良いと分かる調度品に、柔らかなベッド。
何故自分は此処で寝ていたのか疑問に思う。
(俺は確か・・・・魔将軍ディストの城に攻め入って・・・・・・。)
途中まで思い出しかけた所でノック音がして男が入ってきた。
「目が覚めましたか。アルバ雷電将軍?」
その男、アレフを見た瞬間に今までの記憶が一気にあふれて来た。
「貴様っ!」
そう陵辱の記憶も・・・。
そんな俺を気にする様子もなくアレフは近づいてきた。
「くるなっ・・・!」
なんとか目の前の男から逃げたいが手枷と鎖は外されているものの、魔封じの腕輪は両腕に嵌ったまま。さらに気がつかなかったものの首には奴隷につける「隷属の首輪」が嵌められていた。そしてどれだけ経ったか分からないが行為の所為で身体がだるく起き上がることさえ覚束ない。
(くそっ・・・・!)
アレフは俺の寝ているベッドの近くまで来ると立ち止まって
「先ずは・・・・謝るべきですね。 ディスト達を欺くためとはいえ酷いことを言い、酷いことをしました。
許されるとは思っていませんが・・・・申し訳ありませんでした。」
そう言って頭を下げた。
「はぁっ! どういうことだ。お前は人族を裏切り魔族に着いたのではなかったのか?」
「まぁ、そう思うと思いました。 むしろそう思うように後半は立ち回っていたので思ってもらわないと困るのですが。」
その言葉に困惑していると「失礼、さわりますよ」と言って思うように動かない俺の身体を起こしてクッションで固定してくれた。
「一度、誤解を解きましょうか。 座ってもかまいませんか?」
と聞かれたので許可を出すと「ありがとうございます」そう言って何もない空間からしっかりとした作りの椅子を取り出した。
「お前!? アイテムボックス持ちだったのか? その様子だと亜空間魔法もつかえるのか!? なんで今まで言わなかったんだ!?」
「そういう反応をされると思ったので今まで出さなかったんですがね。 質問に答えますとアイテムボックス持ちですし、亜空間魔法もつかえますよ。 それよりも今はこの事は置いておいてください」
「置いて置けるか!!」
亜空間魔法は約百人に一人しか適性がない、さらにその中でもアイテムボックス持ちは約千人に一人使えるかどうかだ。 しかも当人の技術と魔力に依存するので大きな容量のアイテムボックスを持つ者は更に貴重だ。
アレフの様子からするにかなりの容量のアイテムボックスだろう。
俺は、頭を抱えたくなった。
この魔法はいろんなところで争奪戦が起き出るところに申し出れば出世間違いなしの魔法である。
しかし、昔その魔法に目をつけた欲深い者たちによる人攫いなどがあったこともあり、珍しい魔法を使うものは実力のあるものは騒がれないために人目に晒さないか、一般人は専門の機関に保護してもらうのが一般的だ。
アレフの場合間違いなく前者だろう。
仕方がないから置いておくしかない現実に既に俺は頭が痛くなっていた。
「まあ、いい。説明をしてくれるなら説明を求める。」
深く深呼吸をして自身を落ち着かせてから再度俺は尋ねた。
「裏切ったわけではないんだな? それと此処はどこだ?」
「裏切るほどアルバ将軍と付き合いがあるわけではありませんが、あった事の説明はさせていただこうかと思います。
それと此処はどこだ?と言う質問に関しましては先に答えさせていただきます。」
たしかに裏切りと言えるほど俺とアレフの付き合いは長くない。
アレフは下級騎士であり実力はあっても上に行こうとしないため、兵士としての歴は十年以上と長いが誰かの専属の部下と言うこともなく様々な上官の間を行ったりきたりしている。噂ではいつでも出て行けるように誰かの下にはつかないと聞いたことがあったな、と思い返していたとき衝撃の事実がアレフの口から飛び出した。
「ここは魔将軍ディストの城の一部屋です。」
「なっ!」
驚いて思わず身を乗り出しかける俺に
「安心してください。 既に魔将軍ディストは殺しました。他の魔族も。この城にいるのは人では私と雷電将軍と火炎将軍だけです。」
「まて、なぜグエンがここにいる?」
「その説明は追々。」
とアレフに翻弄されるがどうしても先に聞いておきたいことがあった。
「まて、その前に聞きたい事がある。」
「はい、何ですか?」
椅子に座って涼しい顔をしているアレフに
「部下は・・・・・・部下はどうなったんだ?」
まさか本当に魔都に送られていたら・・・・・・・・・。
自分の顔色が悪くなっている自覚のある俺を見ながら
「こんな時でも自分より部下の心配ですか、あいかわらず。」
疲れたようなため息をつきながら彼は答えた。
「ご安心を。将軍が囚われていたあの部屋では魔族たちの“目”がありましたから魔都だと言いましたが、フロアの魔方陣が発動しかけたとき咄嗟に魔方陣の行き先を書き換えてカナール王国近くの森に飛ばしました。」
咄嗟のことだったので正確には王都まで行くはずが近くの森に送ってしまった、だがとっくに王都まで帰っているはずだとアレフは言った。
「でなければ火炎将軍が来るはずありませんしね。」
とボソッと何か言ったが聞こえなかった。
「さて、改めて説明の前に将軍視点のお話を聞かせてください。 それに補足、訂正します。」
そう言われ俺は城に攻め入りフロアで魔方陣に掛かったこと、残ったのが自分とアレフだけだったこと、後ろから来た衝撃――おそらく魔法で意識を失ったこと、囚われているときにアレフが入ってきた事で裏切られたと思った事などを話した。
「話は分かりました。」
起きたばかりで長く話した所為だろう喉と口が渇いてきた。
その様子を見ていたアレフは一度立ち上がり用意してあったであろう水差しとグラスを持ってきた。そして水差しの水をグラスに注ぐと
「どうぞ。」
とこちらに渡されそうになるが本当に信じて飲んでいいのか分からず躊躇ってしまった。
「毒見が必要ですか?」
こちらを見ていたアレフに冷静に問われて
「すまないが頼む。」
情けないが頼んでしまった。
「情けないとか思っていそうですが魔族に媚薬飲まされた前科がありますし、私自身も信用されることは何もしてないですしね。」
そう言ってグラスの半分を飲み、水差しから水を足して渡されたので今度こそ受け取り今度こそと思い意を決して飲んだらとても美味しかった。 これぞ甘露水。 一杯を飲み干してしまったがまだ足りなく視線を上げたらアレフと視線が合わさり、苦笑したアレフにもう一杯注いでくれた。
人心地ついてふぅと息を吐くと
「落ち着きましたか?」
と冷静な視線に夢中でいたのを見られていたことに気づき、ずっと見られていたと自覚して恥ずかしくなった。
「さて」
そんな俺に構わずアレフは続けた。
「一つ一つ説明と訂正を入れていきましょう。」
そう言って指を立てた。
「まず一つ、フロアにかけられていた魔方陣には特定以下の実力――この場合将軍クラスですね――の者を特定の場所――この場合魔都ですね――其処に送る物でした。」
つまりアレフの実力は噂どおり将軍クラス――それも五大将軍クラスということになる。
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