8 / 9
第8話 メーデー
メーデーメーデーメーデー。
夏の始まりの日と同じ音で、俺は助けを求めている。
もうずっと。
だって君がかわいすぎる。
ファーストコンタクトは、俺が高校三年生の、あの初夏の日。
制服の中で身体が泳ぐくらい小さくて細かった君が、俺を追いかけはじめてくれた。
最初は『ただの先輩』だったのが、『この人すごい』になって『頼れる人』になって『目が離せない人』になって、『好きな人』になって『手に入れたい』になった。
君の視線に込められた熱が変わっていくその過程を、俺は今でも覚えている。
月めくりどころか、日めくりのように、あの頃の君は俺の目の前でどんどん変わっていった。
最初はその君の熱に引きずられていたのかもしれない。
恋心なんかじゃなくて、興味だけだったのかもしれない。
それは否定しない。
でも、今じゃどうだ。
一緒に暮らし始めて、熱が変化するならそれもいいんじゃないかと思った。
飽きるとか別れるとかそんなことはあり得ない。
そうじゃなくって、絶対に俺はミキを離せないだろうことはわかっていたから、燃え盛る炎が炭火になってずっと熱を保つ方向で。
予感は外れなかった。
俺は自分の情けなさを目の当たりにすることになって、落ち込んだりもしたけど、君はそんな俺でもいいよと言ってくれる。
弱いところも好きだと。
ずっと一緒にいるために、一人で頑張ることじゃなくて、無理せずに寄り添っていく方向に努力しようって、俺を抱きしめてくれる。
離れられないのは、俺の方。
「……けー先輩……朝、ですよ」
こんこん、と部屋のドアがノックされる。
耳が先に起きていたのだろう、その音を拾って目をあけたら、ミキが部屋の中を覗き込んでいた。
そのしぐさが、小動物っぽくってかわいい。
身長なんて俺より高いミキの外見に、小動物っぽいところがあるわけじゃないけど、でも、かわいい。
「んー、ありがと……」
「寝癖、ついてます」
体を起こした後ぼやっと布団の上に座り込んでいたら、ミキが俺の隣にちょこんと座って寝癖を直そうと俺の髪を触る。
最近、朝に弱い俺のために、寝起きのいいミキが朝飯を作ってくれるようになった。
できる方ができることをしていきましょうって、生活のルールが変わった。
「先輩、寝ぼけてる?」
俺に触れながら、ミキが楽しそうに笑う。
「ん……起きてる」
「嘘」
「ホントだって」
「先輩かわいい」
「かわいいのは、ミキ」
「先輩ですよ」
ホントに楽しそうにしているんだけどね。
昨夜も俺にさんざん可愛がられていたくせに、何でミキはこんなに朝早いんだろうなぁ……。
しかも、かわいらしいし悔しいくらいに、爽やかなんですが。
俺の頑張りが足りないですか。
そうですか。
隣のミキに体重をかけて、そのまま布団へと倒れこむ。
うなじに顔を埋めたら、シャンプーの香りがした。
「ちょ、先輩……朝ごはん、できてます」
「いただきます」
「オレじゃなくて、朝ごはん!」
「ミキが食いたい……」
「こ、今夜、って、言ってたじゃないですか……」
耳たぶをはむはむとしていたら、ミキが精いっぱいといったように小さく抵抗しながら呟いた。
唇で挟んだ耳たぶは、きっと目で確かめたら赤くなってるだろう。
だって唇でわかるくらいに熱くなってる。
「うん、じゃあ、今夜。約束」
「……うん」
今夜はメーデー。
嬉し恥ずかし、念願の同棲生活をはじめて一か月。
ミキは一緒に暮らし始めてすぐのころに、俺の上にのっかってきたけど、そんな、そのままがっついて合体なんてもったいなくて、できなかった。
ミキの心も体も心配だしね。
実家を離れての新生活で、生活に慣れるので大変なミキに、無理をさせたくはなかったし。
それでも欲しいのは間違いなく欲しかったので、約束をした。
約束の夜までは、じっくりと準備にかける時間にしたのだ。
恥じらう初々しいミキを、じっくり拓きながらたっぷり堪能したこの期間。
だって、ミキだよ?
こんな可愛いこを、ぱっくり一回で食っちゃうなんて、魅力的だけどもったいない。
俺は、好物は最後にじっくりと味わうタイプなんだ。
俺たちが通ってる大学は、全国にいくつか系列の中高を持っているマンモス校で、全体共通の行事に『皐月祭』がある。
すごくベタだなって思うけど、五月一日にあちこちの系列校で小さな祭りが行われる。
当然、寮祭もこの日に合わせられることが多い。
俺達の出身高校もここの系列だから、大体の雰囲気はミキも知っている。
だから、焦るミキをおしとどめる時に、約束した。
その夜は元同級生や知人友人含むご近所さん、俺たちに関わりのある学校関係者がみんな忙しい。
絶対に誰にも邪魔されないだろう夜に、ちゃんと最後までしようって。
そりゃあもう、これ何の拷問ですかっていうくらい。
俺の毎晩、何の精神修養ですかって誰かに聞きたくなるくらいに、我慢したさ。
日々刻々と、ミキは変わっていく。
可愛くてエロい清らかなこの小悪魔は、毎晩、俺の腕の中で身もだえして啼いて、濡れ濡れになって安心して眠りについてた。
俺の手で変えながら、その様子を見守るのは、幸せで苦痛だった。
それも、今夜まで。
あの、初夏の日。
眩しい緑の下で俺は君に出会った。
あれからずっと、日々変わる君を見てきた。
夏が恋の季節なら、この日から始まるはず。
新しく関係を築いていこう。
約束のその時は、お互いに緊張してしまった。
それでも、お互いの欲求はわかっているから、手が震えても胸が高鳴っても、することはわかっているわけで。
日が暮れてから準備万端で布団に雪崩れ込んだらもう、そこからは猛スピードで駆け抜けた。
生まれたままの姿でキスをして、ミキの反応がいいところを、念入りに刺激していく。
掌で。
指で。
唇で。
舌で。
歯で。
「…せ、んぱ……ぁっ……」
「ここ? ミキは、ここが好き?」
「すき……そこ、好き……」
一緒に暮らし始めてからも、ミキはどんどん変わっていった。
今も、俺の下で、君は刻々と変わっていく。
俺の大事な大事な、とっても大事な人。
同棲する前にも、何度かお互いの手で熱を放つくらいはしていた。
その時から敏感だったミキの体は、俺の愛撫でますます熱を上げるようになった。
たくさん触って準備してきたひそやかな場所は、いつでも俺を受け入れられるくらいに柔らかくなっている。
あとは、ミキのおねだりを待つばかり。
「すごいね、ミキ、とろとろだ」
「せんぱいが、した……ん……あ、ん、せんぱい……けーせんぱ…」
「ん? 何? どうしたの?」
俺の下で仰向けになって、顔の横で枕を掴んでいるミキは、いやいやというように首を振る。
胸の粒はぷっくりと膨らんで、俺の唾液でてらてらしてる。
脚を広げて俺の腰に回して、早く早くと引き寄せる。
右手でミキの中をかわいがりながら、左手はミキの熱を煽る。
もうあちこちがいろんな液体ででろでろで、ミキは半分以上訳が分からなくなってる。
「ミーキ?」
「けーせんぱいが、こんな…こんなに、した……ああっ」
「うん、そうだね……俺がしたね……」
ぐちゅって、指を動かしたら音がした。
ミキの腰がうねうねと動く。
ああ、たまんない。
「……とって……」
「ん?」
ぽろぽろと涙を流しながら、ミキが腕を伸ばして俺を引き寄せてキスをねだる。
ちゅ、と音をたてて、鼻の頭にくちづけをしたら、ミキが笑った。
「何をとるの?」
「オレが、こんななったの、せんぱいのせい……」
「うん」
「だから、せきにん、とって……いっぱい、して……」
こんなぐちゃぐちゃになってんのに。
なのに、俺の恋人はなんてかわいいんだろう。
「うん。精一杯、励むな」
「せんぱい……だいすき…きて…きて、先輩……」
メーデーメーデーメーデー。
緊急信号を出して、助けを求めたいのは俺の方。
も、だめ。
限界。
俺、頑張った。
ここまで我慢した。
ごめんな。
いっぱい優しくして気持ちよくしてやりたかったけど、もう、このエロかわいいミキの破壊力は半端ない。
「俺も」
大事な場所に猛りまくった俺で触れただけで、ミキは高い声で啼く。
「ふあっ……あっああ……あっ……」
「俺も、大好き。大好きだよ、美樹。愛してる」
ミキの体の中に入って、身体を一つに重ねて。
あんまり幸せで、涙が出た。
いっぱいいっぱい愛し合おう。
絶対に忘れない。
今夜、花開くように変わった君を。
これからもどんどん変わっていく君を。
いつまでも、君の変化を見守らせて。
愛してる。
ともだちにシェアしよう!