23 / 125
22
甘いキスを強請るとかそんなテクニックなんて持っていなくて、いきなり飛び上がったせいで口づけをすると言うよりもただそこがぶつかり合っただけのような、そんな触れ合いだった。
胸に当たる金属の冷たさとは反対に、クラドの唇は火傷しそうなほど熱くて……
小さく差し込む雷の光に銀に光る瞳を盗み見ながらその体に縋りついて、引き剥がしてこようとした腕に負けないように全身を押しつけ、声を上げようとした唇を開かせないように必死に吸いつく。
「は る 」
お互いの息が跳ねて、最後の悪足掻きとばかりにオレを離そうとした手を取って頬を寄せた。
皮の厚い掌は固くて熱くて、濃いクラドの匂いが漂っていて……
暗い闇の中で銀に光る瞳に熱が宿ったのが見て取れた瞬間、仄暗い喜びにオレの腹の奥が甘く焦れるような感覚を訴えた。
床に広げられたマントは湿気っていたけれど、荒い息を吐きながら覆い被さってくるクラドの体温のお陰で寒さは感じることはなかった。
それどころか熱い手に体中を撫でられて、じわりと汗が流れるほどで……
武骨な指先が皮膚の薄いところをたどたどしく辿るのがくすぐったくて、笑い出しそうだったのに零れたのは鼻に抜けるような甘えた声だった。
普段なら絶対に出ない声に慌てて口を塞ごうとすると、クラドの鼻先がそっとそれを押し留める。
すり すり と甘えるように繰り返される頬ずりに、嬉しくなってキスをねだった。
肉厚で少し荒れた唇が応えてくれて、入り込んできた舌が口の中を犯していくのをおっかなびっくりで受け入れた。
オレと違って滑らかな動きで上顎をくすぐって、柔らかく下唇に歯を立てて……
今までに感じたことのないような感覚にぎくしゃくすると、粗い顔立ちがふっと綻んで笑みが浮かぶ。
銀に光る瞳が誰を見ているのか、オレにはわからなかったけれど今この瞬間にクラドを独り占めしているのは間違いなくオレだった。
体の最奥を漁られて、指の熱さに怯えて体が自然と逃げを打った。
鍛え上げられた固い筋肉と、オレよりも幾分毛深いと思わせる体毛と……ふいに触れる尾が擽るように肌を撫でて、悶えたくなるような快感を与えてくる。そして太腿に当たる怯んでしまいそうになるほどのサイズのモノに、オレの思考は完全に停止してしまって、ただ必死にその体に縋りついてクラドの指が与えてくれる快感に声を上げるだけだった。
「 ──っ、ぁ あっ」
剣を振るのに慣れた指はごつごつとして無骨で、けれどそれでナカを擦られて拡げるように動かされた時にはやけに甘い甲高い声が出てしまって、恥ずかしさに我に返って慌てて口を押える羽目になった。
クラドに触れてもらいたかったのに、掌を満遍なく使うようにして肌を撫で上げられると、肌が粟立つような震えあがるような、そんな痺れが体中を覆って……
指でぐずぐずにされたソコにクラドが荒く息を吐きながら長大なモノを添えた時、このまま受け入れていいのかと……わずかな良心が声を上げた。
「ゃ らめ、っだめです 」
「駄目だ」
同じ言葉を返された瞬間、熱の塊が縁を押し開け、蹂躙するように入ってくる。
クラドが丹念に解してくれたからぷちゅぷちゅと粘つく音を立てながら、痛みもなく熱を受け入れることができて……
「 っ、ぁ あ……」
「痛むか?」
「ぃ、痛く ない、けど」
「……けど?」
問い直す声は少し苛立ちを含んでいて、表情は苦し気だ。
「あつ い、の、きもち、よすぎて……」
腹に手を添えると、薄い腹の肉を通して脈打つ存在を感じる。
それが最後に残っていたオレの良心を磨り潰して消してしまった。
「そうか。俺もだ」
そっけない言葉だったけれど、体の深くにクラドが入り込んでオレの体で気持ち良さを感じてくれているのだとわかった瞬間はこの上もなく幸せだった。
この黒い騎士がオレだけを熱い目で見て、興奮して、息を荒げて……
普段の余裕のある風は欠片もない、ただの牡としての本能のままにオレを貪って、穿って、吐き出して、取り繕った部分のない感情の吐露に嬉しさを感じたけれど、それは一瞬だけの浅い幸福でしかなかった。
黒い雲が過ぎ去った後の明るい室内で、髪が乾いたオレはどこを見てもかすが兄さんと似ていない。
一度ならともかく、クラドにはもう同じ手は二度と使えないだろうし、現実に戻ったらそう言った目でオレを見てもくれないんだろうなって思ったら、好きな人に抱いて貰えたのにぽっかりとした穴が開いたような虚しさだけが残って、涙を堪えることができなかった。
ともだちにシェアしよう!

