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 正妃の子とも側室の子とも、ましてや愛妾の子と言うわけではない俺は、血筋としての責務である政治には関わらなかったし関わることができなかったとも言える立場だ。  だから、はるひの立場についての話が出ることはあっても、今の話に俺の立場を持ち出されるとは思いもしなかった。 「……俺は、王族としては役に立ちませんよ」 「それはお前の主観だ。はるひもそうだが、自己評価が低すぎはしないか?王の子でありながら国内に柵の薄いお前の利用価値は幾らでもある。貴族達との縁を深めるのにも使ってもいいだろう、他国との交流のためにお前が婿入りすればどれほどの利になる?」  王家と縁付きたい貴族に恩を売るために養子に出してもいいだろうし、他国に人質同然に婿に行かせていざとなれば切り捨てても惜しくない と。  何に使って、どのような結果になっても構わない。  そんな立場だと改めて言われると、ぐっと言葉が喉に貼り付くようだった。 「逆に、お前がはるひと結ばれることによって、王家と神の親密さが過ぎると疎む貴族も出てくるだろう。王家の人間が一代に二人も神と縁付くことはこの国ではなかったからな」  ぱしん と兄の尾が鳴る。 「な なにを……」  先程まではこちらをからかうほどの軽い雰囲気であったはずなのに、急激に変わった空気について行けずに目が回りそうだ。  サファイアをはめ込んだかのような双眸がひたとこちらを見詰めると、呼吸はままならないし肌がぴりぴりと痛みを訴える。  俺とは正反対の、純白の体は神々しくて……  兄弟内では一番目をかけて貰ってはいるが、兄と自分とでは天と地ほどの隔たりがあることを痛感させる。  コリン=ボサの現身と言われるその姿には、人を惹きつけ額突かせる強制力があるようだった。けれど、こちらを飲み込みそうになる威圧感を真正面に受け、気圧されそうになるのを耐えながらぐっと顔を上げた。  身の底の底まで覗き込むような静謐を湛えた碧は、邪心があればすぐにでも見抜かれてしまいそうだ。  そんな瞳の前で出来ることなんてたかが知れているが、俺は椅子から立ち上がると兄の前に膝を突いた。 「────では、貴族と縁付くよりも、他国と縁付くよりも、それよりも大きな利を捧げます。神に近づきすぎたのではなく、王の力が盤石になったのだと言わしめるような。クルオス王の騎士として世の魔を祓い暗雲を退け、御代に光をもたらし続けるような、誰もが納得するような成果を以て報います」  この人には、頭を垂れることが苦ではない。 「────ですので、どうか……はるひとのことをお許しください」  応えはなく、代わりにぱしん ぱしん と物思うかのような尾の打ち鳴る音が響く。

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