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その周りに自分も含まれていると言うことは重々承知だ、何せそのせいで戦勝式が行えないまま三か月も放置状態なのだから。
表向きはゴトゥスでの戦死者の喪に服すためとなっているが、実際はゴトゥス山脈を浄化したかすがと共に大袈裟な肩書きを受けてしまった俺が不在だったからだ。
「たまたま巫女様の傍で生き残ったと言うだけで、『英雄』なんて仰々しい言葉がつくようになってしまったのはどうにかならないのか」
「では犬にくれてやればいいでしょう」
嫌味な言い方だ。
結局は自分の元に戻ってくると言うわけだ。
「その肩書きのお陰ではるひとの婚姻許可が出たんでしょう?外堀から埋めるんだって息巻いて出陣して行ったんですから、重畳なことでしょう」
「言い方に棘を感じるのだが」
「いえ何も」
「……外堀からじゃない。ちゃんとはるひにはきちんと意思確認をした」
エルは「ふん?」と訝し気な顔を見せた。
「はるひはなんと?」
「家族になってもいいと言ってくれた」
だから、改めてはるひに求婚する機会が与えられたことが嬉しかった。
森番小屋以降、時折はるひが具合の悪そうな顔をすることもあったから、もしかしたら子が出来ているのではと淡い期待もしたが、結局出陣式までに生まれなかったのだから本当に淡い期待だったと言うわけだ。
あの時は遠征を前に、子ができていなかったのは幸いだったと思ったが、今思うと残念だった。
そうすれば今頃、足元を走り回っている子供がいたかもしれない。
────俺とはるひの黒い髪と黒い瞳をした……
「では、はるひとは今後どうされますか?他の男の子を産んだのでしょう?」
「どう?」
もちろん未だに愛おしいと思っている。
でなければあんな……マテルと言ったか?あの老婆に示されたように略奪の輩のような真似をしてまで連れ帰りはしない。
これからの人生を思い描いた時に傍らにいるのは笑顔のはるひだ。
……笑顔の、
「 可能ならば、 」
続けた言葉をかき消すように大きな音を立てて扉が開き、無作法なとも言えるほどの大きな足音を立てながら兄が部屋へと入ってくる。
ぴり と感じる怒りの空気のせいか、それでなくとも大柄な兄の体が更に大きく見えて、かき消された言葉を言い直そうとした俺の口を閉ざしてしまった。
「……本気ですか?」
「あ、ああ」
「その話は後にしましょう。陛下、お茶でも 」
ぱしん と尾が鳴り、さすがのエルも言葉を続けることを止めてしまう。
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