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「王はクラドが心配なんですよ、幾ら戦場では英雄と呼ばれても私達からしてみたら、ただの可愛い弟ですからね?幸せになって欲しいと思っているんですよ。もちろん私もそう思っていますよ」
いつもからかいの対象とされているような気分になってしまうけれど、それがこの二人なりの愛情表現だと言うことは言葉以外の部分できちんと受け取っている。
言葉をエルに取られたからか、それとも自分が思っていたよりも恥ずかしいセリフを言われたからかはわからないが、兄は目元を赤らめて不服そうに爪先を鳴らす。
「どうしてお前達が番にならないのか理解に苦しむが、そこまで行くと二人の問題だ、そこまで首を突っ込む気はない。だがお前もはるひも俺の弟だ、訳のわからないままに不幸になるのは許さん」
そう言うと乱暴に髪を掻き毟り、俺が来た方向へと尾をくねらせながら行ってしまった。
「照れる言葉ですかね?」
「ふ どうかな」
「けれど、貴男のことでやきもきされているのは事実です、王の心の平穏は国の平穏ですから、そのためにも速やかな解決を願いますよ」
銀縁の眼鏡の奥の目を細められ、睨まれたわけでもないのに反射的に背筋が伸びる。
「 特に、あのことに対しては」
潜められた声は俺の耳にのみ届くように調整されていた。
あのこと……
細かくちぎられた紙片を集めた便箋を思い出して、スリングの中の温もりをぎゅっと抱き締める。
むずがる様子がないところを見るとこの会話の間に待ちくたびれて眠ってしまったんだろう。
「 もちろん、はっきりさせるとも」
エルと同じように潜めて返すと、満足そうに頷く顔が見えた。
そもそも、剣を振るうしかしてこなかった俺の人生で、赤子の世話を焼くと言う行事が起こるとは思ってもみなかった。どうにも子供が恐ろしく思う顔立ちもあるのだろうが、黒い耳と黒い尾が特に子供には怖いらしく、いつも遠巻きにされて終わってしまう。
俺に懐いた子供なんて、はるひくらいだった。
もっとも、引き合わされた時はまだ自分も子供だったから、子供と子供が仲良くなった くらいの感覚だったのかもしれない。
こちらの拙い言葉と、抑揚が少なくてわかりにくいあちらの言葉でごっこ遊びをしたのはいい思い出だ。
「お前とも、してみたかったが」
妙に気恥ずかしくなるようなポーズをはるひの納得いくまで取らされて、思い出すと恥ずかしい思いもするが楽しく遊べた。
スリングの中の尻の辺りをぽんぽんと叩いてやるともぞりと動く感覚がする。
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