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この言葉を言うことは、きっとヒロをミロクに託したはるひを裏切る行為だと分かる。
はるひは自分がいなくなった後も、俺がきちんとヒロを育てて慈しんで行くと信じているからこそ託したんだろう。
あの状況で、希望を持って……
自分の子の手を離す決断を、どんな気持ちで行ったかは腹を痛めたことのない俺にはうかがい知ることのできない事柄だけれども、小さく、頼りなく、そしてどこまでも愛おしい手を離す苦渋はわかる。
「 ヒロのことを、よろしくお願いいたします」
掌にぶつんと蝋引きの紐の千切れる感触が響いて、飾りのビーズがぱらぱらと毛足の長い絨毯の上に音もなく落ちる。
突き出した拳の中にはひやりとした青い宝石の感触がして……
「そうか」
頑なに動かないと思えた唇からそう言葉が漏れ、俺の手からカメオを受け取る手はひやりと冷たかった。
「騎士でないなら口出しは出来ないな」
ぽつんと零れた声は俺ですら聞き落してしまいそうな小さなもので……
兄と険しい顔で物言いたげだけれども口を引き結んでいるエルに頭を下げて執務室を後にした。
「閣下っ!」
鋭い呼びかけはラムスの物だ。
その後ろからディアが遅れて走ってくるのが見えて、一瞬無視しようかとも思ったけれど思い返して足を止めた。
「その格好はっ 」
青い顔をして俺の頭から爪先まで見たラムスが言葉を詰まらせる。最後に下げている剣の柄に視線をやってから、困惑を隠せない表情のままディアを振り返った。
ゆっくりと歩調を緩めるディアも俺の格好に気付いたのかショックを受けたのを隠そうとしない。
王宮で過ごすための服でもなければ、騎士の制服でもない今の俺の姿はただの旅人か冒険者にでも見えるだろう。
幸いこの黒い耳と尾が身分証明になってくれてはいるが、馴れない者は俺と認識できないかもしれない。
「しばし時間を下さい!」
「ラムス⁉お前何を言っているんだ⁉」
止めようとしたディアを押し退けて、ラムスは俺に詰め寄ってくる。
「すぐに準備して参りますからっ!お願いです!」
「騎士であることは返上した。だから、もう俺に付き従う義務はない、すぐに新たな配置の連絡が行くだろう」
「私はっ 他の誰の下にもつきません!」
きらきらとしたつぶらな黒い瞳は真珠のようで、それから溢れる俺に対する敬愛の感情にはいつも救われていた。
男の多い隊の中で苦労もしただろうし、ポジション的に『種の揺籠』と……戦いに出る王族の傍らに侍り、子種を持ち帰る役目だと揶揄われることもあっただろう。
それでも忠実に真摯についてくれたことに対して、感謝している。
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