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ざぁー……と柔らかな音がして雨脚がするすると突如発生した巨大な触手の方へと伸びていく。もちろん一方向だけではなく、ゴトゥス山脈を包むようにゆっくりと広がりながら向かっていた。
日の光を受けて七色に光を見せる銀色の雲とそこから絶え間なく滴り落ちる銀の雨に、遠目からでもはっきりとわかるほど群がっていた瘴気がざぁっと塵に還されて行く。
それだけで今にもゴトゥスが動くんじゃないかと思わせるような圧迫感はなくなって……
「……あれは……神の力の、雨か?」
「はい、陛下」
「この範囲をだぞ?」
「……はるひがいてくれたので可能でした」
さすがの前国王も呆気にとられたような様子で、目の前の山脈を確実に飲み込んで銀の雨を降らせていく様を眺め続ける。
神の力、浄化の力を前にしてそれを天敵とする瘴気はあっさりと敗北を認めて姿を消していき、それはやがて魔物にも効果を出し始めたようだった。水のような巫女の力は降り注げば降り注ぐほど魔物の体を濡らして隙間から中身を浄化していく。
「私一人では、広範にこんなことはとても……」
そう言うとかすが兄さんは気まずそうに俯いてしまった。
ぽつぽつと時折思い出したかのように頬に当たる雨は慈愛のためか温かく感じる。
「はるひのお陰です」
「ほう? 神の寵愛深く、しかも一度はゴトゥスを浄化した巫女なのだからもっと誇ればいいだろう?」
冴え冴えとした青い瞳に睨まれているせいかかすが兄さんはやっぱり青い顔で、次々と瘴気や魔物の数が減って行っていると言うのに浮かない顔をしたままだ。
「兄さん……何かあった?」
「……ごめん」
「どうして謝るの?」
「いや、なんでもないよ」
俯くかすが兄さんの頬に雨の雫が伝って、どうしてだか泣いているかのように見える。
「……おい……おいっ! あいつがまだ動いてるぞ!」
「 っ」
ミロクの声にぎゅっと握り合った手に力が籠った。
険しい表情をしたかすが兄さんが山の方を見つめるけれど、その先はずっと銀色の雨の降り続ける光景で……
「……クルオス」
ぽつりと王の名前を呼ぶ声には深い深い愛情と悲しさが含まれていて、けれどオレはよくわからないまま首を傾げた。
「兄さん?」
「 なんでもない……はるひ、『兄ちゃんはるひに謝らなきゃいけないことがあるんだ』」
「え? ぁ、『どうして今?』」
かすが兄さんの「一つ、あります」の結果が今の状態なのだとしたら、悪いことに事態はまったく好転していないことになる。
幾ら瘴気や魔物をこの雨で浄化することができたとしても、魔人をどうにかできない限りはそれらは幾らでも湧き出してくるものだからだ。
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