262 / 304

2−137

「  ────っ! クラド様っ!」  思わず叫んで駆け寄ろうとした足が止まった。  違う。 「ああ、来たか」  そう言ってソファーからこちらを見上げた人物は確かにクラドだった……けれど、こちらに向いた瞳は煙水晶のような美しい黒色じゃなかった。  けれど、クラドだ。  駆け寄ろうとした足を止めてじりじりと後退を始めた自分に微笑みながら、偽物のクラドはゆっくりと立ち上がって両手を広げた。  その姿は……どこをどう見ても…いや、瞳以外はクラドそのままだ。 「よく来た、愛し子よ」 「な、なに  ……なんですか? ……貴方は、クラド様の顔で何を……」 「クラド、なるほど」  そう言って偽物は顎をしゃくると楽しそうに顔を歪ませる。  それは普段のクラドならば絶対にしない表情で、オレはどうしてだか衝撃を受けて泣きそうな気分になってしまった。 「まずは挨拶をしよう、『箱庭』へようこそ、我が巫女よ。歓迎するよ」  クラドの顔で、けれど喋り方はクラドとは比べ物にならないくらい軽い。  目の前のこの男性は未知の相手だと言うことは肌で感じることはできたが、けれど視覚から入ってくる情報がそれを邪魔するせいでオレは話しかけてもらってもぞんざいな返事しか返せない。 「あ 貴方はっ一体、誰なんですか⁉︎」  どうして自分がここにいるのかよりも先に、クラドの姿をしたこの男のことの方が気にかかった。 「私? 私はこの世界の唯一神、コリン=ボサだよ」 「……は?」  質の悪い冗談を言う方だ……と言う思いで思わず相手を睨んでしまう。  この世は、二神一対としてお生まれになった神のコリン=ボサが、他の世界から思うがままに好きなものを寄せ集めて作った『箱庭』だと言うのは、貴族的な勉強を受けていないオレでも知っているくらいこの世界では常識なことだった。  この目の前にいる、クラドそっくりの別人の言葉を素直に聞くのだとしたら、この目の前の男はこの世界を作った神と言うことになる。  どうしていいのかなんてわからないし、本当なのかすらわからなかったけれど、それでも本能がこの男にはひざまずけと訴えかけてきて、膝を折って頭を垂れながらなんでこんなことになっているのか、どうしていきなりこんな場所にいるのかを懸命に思い出そうとして失敗した。  何もわからない……  けれどかすが兄さんが言った「会話なんてする必要ない」の言葉に縋って、唇をきゅっと引き結んだ。  そろり……と周りの様子を窺う。  幾度見てもそこは現代日本建築で建てられた普通の一般家庭で、何がどうなったのか何一つ情報らしきものが手に入らなかった。  

ともだちにシェアしよう!