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落ち穂拾い的な ロニフ

「あ゛ー……どうすりゃいいんだよ」  ばりばりと頭を掻いたバトラクスは苦悩に苦悩を重ねたような声を出して項垂れる。 「俺さぁ、やっとここまで上り詰めたわけだよ、わかる? 没落貴族の末っ子がさぁ、やっとちょっといい仕事に就いたわけ」 「   」 「んでさぁ、今回のが何事もなーく終わったら褒賞で、プロポーズしようと思ってるわけだよ」 「   」 「だから何事もなく終わって欲しいわけさ」 「   」  少女はじっとバトラクスを見て答えないままだ。  バトラクスはちらちらと少女を見て、けれど肩を竦めて立ち上がった。 「まぁ、兵士になったら三食風呂宿付きだしなぁ」  はぁー……と溜息を吐きながらバトラクスは上着を脱いで少女に差し出す。 「ほれ、これに着替えろ。いいか、足は上げるんじゃないぞ? 女の子なら恥じらいを持て」 「   ?」 「服着ろ、ほらこれ!」  突き出した服を少女は不思議そうに見やるだけだ、バトラクスはまた「はぁー」と大きな溜め息を吐きながら少女の後ろに回って服を肩にかけた。 「ボタンは自分で留めるんだぞ? ……はぁー……まぁ、食うに困るってつれぇもんな、腹が減るのはマジでたまらん。ましてやガキならなおさらだろう」 「?」 「まぁ運が良ければ隅っこにでも置いてもらえるだろうからな。んじゃあ登録するから名前は?」 「……?」  きょとんと首を傾げた少女にバトラクスは「マジか」と呻き声を零した。    飾られた常緑の小枝を見上げた後、ロニフはお茶を客人に出した。 「まぁ、元気そうだな」 「はい。お義父様もお元気そうで」  そう返されてバトラクスはうーんと唸りながら茶を啜った。自分の家で出されるものよりもはるかにいいものだと思いながら、名前すらなかった少女を見る。  堅苦しい雰囲気は変わらなかったがその身なりは驚くほどに綺麗だし、何よりもきちんと受け答えできるようになっていた。  名前のない少女のためにバトラクスはプロポーズが遠のくだろうと覚悟を決めて自分の名前で登録をしたが、その後少女は兵士候補を小枝一本で薙ぎ払った挙句に王宮騎士団長をやり込め、近衛一団に圧勝してしまった。  そのことで王の御前に引きずり出された時のことを思い出して、バトラクスいまだに震えそうになることがある。  幸い、なぜバトラクスを名乗っていたのか 等の聞き取りのためだったが…… 「元気そうならいいや」  あの後、名前を貸した関係であの少女の姓はバトラクスになり、名はその場で国王陛下より下賜され、紆余曲折を経て剣聖の称号を持って今は異世界から召喚された巫女の護衛をしている。  そんなロニフ・バトラクスを名乗ることになった少女の後見人として、バトラクスはその少女にお義父様と呼ばれている立場だった。 「宮中の有象無象に苛められてやしねぇかと思って様子見に来ただけだ」    はは と笑ったバトラクスは茶を飲み干すと、用事は終わったとばかりに立ちあがる。 「お前がどう思ってんのか知らんが、たまにはこっちの家にも顔を見せに来い」 「はい」  相変わらずそっけない顔で、バトラクスが来たことを喜んでいるのか嫌がっているのかわからない状態だったが、バトラクスは気にしなかった。  身元を引き受け、その関係で父と呼んでもらってはいるが、ロニフが自分に頼っているシーンを想像できなかったからだ。とは言え、親と呼ばれているのだからこうして様子見にも来るのだけれど……   「お義父様」 「ん?」 「近いうちに、お力を貸していただくかもしれません」  それは少女の初めての願い事だった。   「なんだ、巫女様を怒らせたか?」  からかいで言った言葉にロニフは返事をせず、神妙な顔のまま頷き返す。  没落した貴族のバトラクスは、ロニフの身元を引き受けたために少し地位が向上していたが……また何か起こったのだろうかとバトラクスは顔をしかめた。 「そっか。まぁなんか馬鹿なことやったとしても気にすんな、辞してもなんとかしてやるよ」  食っていくくらいなら何とでもなるさぁ と言って帰って行くバトラクスを見送り、ロニフは両手をそっと腹に這わせた。 END.

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