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ごめん③

 しばらく貪られたあと、ようやく唇を解放されると、僕はかなり困惑しながらもなんとか言葉を絞り出した。 「いきなり、どうしたの?  僕、何かした……?」  理由は分からなかったけれど、またしても地雷を踏んでしまった事だけは分かった。 「大晴。さっき知之に、抱き締められてたよな?  ……もしかしてアイツとも、こんな風にキスした事あんの?」    あまりにも予想外な問いに、思わず吹き出した。 「はぁ?なんだよ、それ……。  するワケ、ないじゃん!知之はただの、友達だよ?」  なおも笑いながら答えると、遼河くんは完全に拗ねてしまったのか、僕の肩に額を乗せたまま完全に無言になってしまった。 「おーい、遼河くん?  ……ホント、嫉妬深いんだから」  ポンポンと彼の頭を軽く撫でながら、苦笑した。 「なら、前も聞いたけど。  ……キスとかそれ以上の事をする、俺とお前の関係は?」  ずっと僕自身、自問自答を繰り返してきた問題。  だけどやっぱり、答えはまだ出せていない。  でもすぐに単なるセフレだと答える事が出来なかった自分に、また少し戸惑った。 「この関係に名前を付けるのは、まだこわいんだ。  ごめん、もう少し待って……」  まだこわい、などと言ってしまう辺り、僕の気持ちはもう完全に、彼に向かっているという事なのだろう。  それに最近の僕は、あれだけ恋い焦がれ、執着してきた史織の事を、もうほとんど考えなくなっているし。  それでもはっきり彼を好きだと答えてしまったら、これまでとは全てが変わってしまいそうで。  ……僕はそれが一番、こわかった。

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