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間違えた選択②

***   「大丈夫?大晴。  お前いつも以上に、乱れまくってたけど」  行為が終わると遼河くんは、汗で濡れた前髪をかき上げながら、ニヤリと意地悪く笑った。  ……いったい、誰のせいだ。  それに少しだけ苛立ちながらも、口答えする余裕なんて僕にはもう微塵も残されていなかったから、彼に抱き付いたままただギロリと睨み付けた。  するとククッと笑いながら、まるで幼子をなだめすかすみたいに優しく頭を撫でられた。  そしてそれだけで全てがチャラになってしまう辺り、僕はなんてお手軽な男なんだろうと、自分でもちょっと呆れてしまうけれど。    行為の最中、うっかり自覚してしまった想い。  これまで無理矢理ずっと気持ちを誤魔化して来たけれど、もうさすがにそれも限界のようだ。  ……僕も彼の事が、どうやら本気で好きになってしまったらしい。  カラダだけの関係の方が、楽だと思っていた。  それに僕は史織以外の人間を、愛する事なんて出来ないのだとも。  なのにカラダから始まった関係にいつしか溺れ、僕は彼に胃袋だけでなく、心までも掴まれてしまった。    とはいえこの気持ちを、遼河くんに伝えるのはやっぱりこわい。  受け入れてくれるのは分かっていても、伝えて付き合うようになったら、恋人という関係が終わる時、僕たちの縁は完全に途切れてしまうから。     だけどこの気持ちを、彼に伝えなかったさえ。  ……セフレのままカラダだけの関係を続けたさえ、その繋がりが無くなった後も、もしかしたら彼は友達として僕の側に残ってくれるんじゃないだろうか?  卑怯で臆病なこの考えは、僕には最も正しい選択のように思えた。  だって遼河くんが、ずっと僕みたいな人間の事を好きなままでいてくれるだなんて、考える方が間違えている。  だったら例えどんな形だったとしても、この人の側に居たい。  ……彼に飽きられ、抱かれる事が無くなった後も、出来る事ならばずっと。  しかし(のち)に僕は、気付くんだ。  ……この選択が完全に、間違えたモノであったと。

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