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江ノ島ドライブ②

「さてと……知之も無事、送り届けたし。  俺らはこれからふたりで、ドライブでもどうですか?」  ハンドルに軽く伏せるようにして、上目遣いに穏やかに微笑んで聞かれた。  その色っぽい仕草にドキリとしながらも、断る理由も特になかったから、素直にその提案を受け入れた。 「江ノ島の方とか、どうよ?  水族館とか、俺は割と好きなんだけど……」    そっち方面はほとんど行った事がなかったから、一気にワクワクが増していく。  テレビで以前見た、江ノ島特集。   水族館には巨大な球体状のクラゲの水槽が、あるらしい。  行ってみたいと思いながらも、ひとりで行くような場所でもなかったから、気になりながらもずっと行けないでいた。 「うん!僕も、行きたい!」  大きな声で答えると、彼はクスクスと可笑しそうに笑いながら、カーナビを目的地である江ノ島方面にセットした。  僕は運転が出来ないし、史織も知之もペーパードライバーだから、誰かの車で遠出をするの自体かなり久しぶりだった。  しかもドライブに連れていってくれるのが、恋心を自覚したばかりの相手であるこの、遼河くんとか……。  そんなの、テンションをあげるなという方が無理な話だろう。 「一応下調べはしてきたけど、知之も一緒だと思ってたから、デートコースとは少し違うかも。  だからそれはまた、今度のお楽しみって事で」  イタズラっぽく笑って言われたその言葉に、トクンと跳ねる心音。  だけど同時に、|こういった事《・・・・・・》に慣れているらしき様子に、少しだけ悲しくなってしまうワガママな僕。   ……ほんの、少しだけだけれど。 「うん?大晴……どうかした?」  心配そうに、僕の顔を覗き込む濃灰色の優しい瞳。   だけどその理由は絶対に口にしたくなかったから、ただ曖昧に笑った。  

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