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江ノ島ドライブ③

 車中で彼は、終始ご機嫌で。  いつも以上によく話し、いつも以上によく笑った。  だから僕もそれにつられ、いつもよりは話し、いつもよりは笑ったように思う。  なのに心は何処か、常に冷めていて。  ……こんな風に彼が僕を大切にしてくれるのは、僕が彼の告白を受け入れないせいなのだろうなどと考えていた。  これまでろくに人付き合いをしてこなかったせいで、他人を信じる事が出来ない。  その上無償の愛を捧げるのは平気でも、それを向けられる側の立場に回ると途端に途方に暮れてしまう、面倒な性格。    こんなにも可愛げのない僕の事なんて、彼がこのままずっと愛してくれる保証なんて何処にもない。  それに遼河くんも、言っていたではないか。  彼は男でも女でも、選り取りみどりで。  ……本来は選ばれる側ではなく、選ぶ側の人間なのだと。    だからやっぱり、これで良かったんだ。  ……彼と恋仲になり、いつか終わりを迎えるくらいなら、これで。 ***  鎌倉市内の駐車場に車を停めて、そこから江ノ島駅までは電車で移動した。  電車は民家ギリギリのところを走るものだからちょっとドキドキして、思わず窓に両手をつけて車外をじっと覗いてしまった。  そして彼がそんな僕の姿をじっと見ている視線に気付き、それがなんだか恥ずかしくて軽く睨み付けると、可笑しくてたまらないとでも言うようにククッと笑われた。  そのあとは彼のオススメだというお店で、釜揚げのしらす丼を食べた。   もう少し温かくなったら生のしらすを食べられるから、また一緒に来ようなと言われた。  だけど僕はそれには答えず、またしても曖昧に笑って誤魔化した。

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