137 / 137

【SS】ハッピーエンドの作り方〜Side遼河〜

 青空に大きく広がる、入道雲。  あれからさらに月日が流れ、今はもう夏真っ盛り。  そして今日は、君下と俺が紹介した悪役レスラー、野嶋さんの結婚式当日だ。  彼の恐ろしいまでに太くたくましい腕にぶら下がり、満面の笑みを浮かべる天使みたいに愛らしい君下。  それを心底愛しそうに見下ろす、野嶋さんの糸みたいに細い瞳。  ……見た目からは分かりづらいが、本当にお似合いのふたりだと思う。  野嶋さんの元を離れ、真っ白なウェディングドレスに身を包んでいるというのに、大晴に向かい大きく手を振り駆け出す彼女。  こんな時ですら大口を空けて笑うこの女は、本当に。……本当に、強敵だった。  俺が彼女に野嶋さんを、紹介していなかったら。  あるいはもし大晴が俺の働く結婚相談所を、訪れてくれていなかったら。  新郎としてこの女の隣に立っているのは、もしかしたら大晴だったかもしれないと思うとゾッとする。 「本当におめでとう、史織。お幸せにね」  だけど心から笑ってそう告げる大晴を前に、俺も自然と笑顔になれた。 「おめでとう、君下。俺のためにもほんと、末長くお幸せに」  思わずポロリと、零れ出た本音。  その言葉に、不思議そうに首をかしげる君下。  すると大晴はちょっと慌てた感じで、こっそり俺の足を蹴っ飛ばした。 「おめでとう、史織ちゃん。でもなんで、遼河までいんの? お前ら、仲良かったっけ?」  モグモグと、出された食事を頬張りながら知之が聞いた。  おい! ……お前はまたしても、何を余計なことを。  まじで、空気読め!!  不思議そうに、首をかしげる大晴。  どうしたもんかなと微笑んだまま考えていたら、俺が口を挟むより早く、あっさり君下が答えてしまった。 「なんで、って……。だって彼のことを紹介してくれたの、早乙女くんだし」 「……へ?」  大晴の愛らしい唇から、変な声が出た。 ***  その後君下は挨拶回りに行き、知之は久しぶりに会う女の子達とのおしゃべりに夢中。  なので自然と俺達は、広い会場内でふたりきりになった。  ちなみに現在俺達の周囲は遠巻きに、元大晴様を愛でる会の会員達で埋め尽くされているが、こいつはまったく気付いていない様子なのでノーカウントとしておく。    こそこそと、しかし鼻息荒く大晴の写真を撮りまくる、愛でる会の元会長。  おそらく今日出席している会員から集められた写真を使い、『月刊不可侵の大晴様 臨時増刊号』でも作成するつもりなのだろう。  っていうか親友の君下の晴れ姿より、大晴の写真の方が多くないか?  ……ほんと、成長しない人だよな。  だけど、お元気そうでなにより。  面白そうなので、後日脅し……。いや、お願いして、一部分けてもらうとしよう。  ニヤニヤと、上がろうとする口角。  その時視線を感じ、ふと横を見ると、やたらと険しい表情をした大晴と目があった。 「ねぇ、遼河くん。……いつから僕は、君の手のひらの上で転がされてたの?」  じとりと俺の顔を睨み付け、聞かれた。  ……さすがに、バレたか。 「人聞きの、悪い。これも全部、運命じゃね?」  こっそりと、皆からは死角になる絶妙な角度で。  ……文句を言おうとして尖った彼の唇を、キスで塞いだ。                  【…fin】

ともだちにシェアしよう!