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2 紘一視点

 紘一は部屋に着いたら、まず少年の泥と血の付いた服を脱がせて傷の手当てをした。少年の言うとおり出血は止まっており、傷口周りを綺麗にして包帯を巻いておく。  刃物で切られたような傷は二の腕を縦に伸びており、こんな柔肌に、とムカついたところで首を振った。  確かに同じ男とは思えない程綺麗な少年だ。日本人どころか人間離れしている印象もある。 (本当に綺麗な子だな……)  自分の服を着せて水を飲ませた後、改めて彼を眺めているとそんな感想が漏れた。見ていても飽きない。そんな彼は普段、どんな表情をするのだろう。  そこへ、ふわりと優しい風が吹いた。それに誘われたかのように、少年の目が開く。 「あ、目が覚めたか?」  紘一が声を掛けると、ボーっとした様子の少年は紘一と視線を合わせた。その瞬間、また彼から視線が外せなくなる。 (え、また? 何だよこれ)  しかも今回は耳鳴りもする。それもだんだんひどくなり、少年の瞳が金色になるにつれそれが激しくなるのが分かった。そしてある瞬間、そのノイズは突然消える。  音がない世界で少年がゆっくりと起き上った。金色の瞳が再びこちらを捉え、近づいてくる。彼の左手が紘一の頬を撫で、それがうなじにまわり、そっと引き寄せられたその瞬間。  甲高い電子音がいきなり聞こえて、紘一も少年もハッとする。 「あ、僕の携帯……」  服を替えた時にポケットから出した少年の携帯電話を、紘一はすぐそばのローテーブルに置いていた。  紘一はそれを少年に渡すと、彼はすぐに電話に出る。 「もしもし……」  少年はちらりとこちらを気にしながら、相手と話している。紘一はその瞳を見ると、やはり色は琥珀だった。  今のは何だったのだろう、と思うが、深く考えないことにした。さっき金色に見えた瞳は元々色素が薄いみたいだし、角度によってはそんな色に見えるのかも、と自己完結したところで、少年が少し慌てたようにしていることに気付く。 「ごめんって……今日中に帰るから……え? どこにいるかって?」  どうやら相手は心配して掛けてきたらしい。こちらを見て困ったような顔をする少年を見て、紘一はその細い手から携帯電話を奪った。 「あっ」 「もしもし」 『……どちら様ですか?』  電話の相手は男だった。物腰は柔らかいけれど、こちらに対しての警戒心を隠そうともしない。それもそうだな、と紘一は落ち着いた声で話す。 「ご家族の方ですか? 彼が怪我と熱で倒れてたところを見つけた、通りすがりの者です」  案の定相手は驚き、手当てしたことと迷惑をかけたことに礼と詫びを言ってきた。ふと視界の端で布団を握りしめる手が見えて、その手をそっと握る。ハッとこちらを見る少年に微笑みかけると、柔らかい手が温かくなっていった。 「はい、お願いします。場所は……」  迎えに来るという相手に場所を教えると、電話を切る。握ったままの手をそのままに、そのことを伝えると、元気なく「そうですか……」と返ってきた。  紘一はそれ以上何も言わず、迎えが来るまで寝てろ、と少年を寝かす。 「あの……」  横になった少年が、遠慮がちに話しかけてきた。 「あの、ありがとうございます。……えっと」 「ああ、詮索するつもりはないからいいよ。寝てな」 「いえ、そうじゃなくて……手」  戸惑ったような少年の指摘に、紘一は慌てて手を放しかける。しかし、逆にギュッと握られてしまった。そこで今更ながら、男とは思えない柔らかな肌にドキリとする。 「何か安心するので、握ってても良いですか?」 「……ああ」  了解しながら、急に恥ずかしくなって視線を逸らす。同性に、しかも年下にこんな風にドギマギしてしまうのは、きっとこの子が綺麗すぎるからだ、と意識して意識しないように努めた。

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