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4 和馬視点

「まったく……勝手に出歩かないでくださいと言ったでしょう」 家のベッドに寝かされるなり、竜之介の小言が始まった。彼がこういうことを言う時は、大体自分が心配をかけた時なので、結城和馬(ゆうきかずま)は素直に謝ることにしている。 「ごめんなさい……」 すると、竜之介は大きなため息をついた。きっと、謝るくらいなら最初からするな、とでも言いたいのだろうが、『家族』は自分に甘いことを知っている。それ以上は何も言わなかった。 「念のため、彼はあなたの血を触っているので、何かあれば連絡するように言ってあります。いいですね?」 「うん……ごめんなさい」 それに関しては謝る相手が違うでしょう、と竜之介はまたため息をついた。 「それで? その怪我はどうしたんですか?」 きた、と和馬は思った。こっそり深呼吸して、あらかじめ用意しておいた答えを言う。 「いつものように散歩してたら、足を滑らせて……枝で切ったんだよ」 本当はこんな理由ではないが、話せない理由がある。余計に心配をかけてしまうし、なによりまだ確証が持てないからだ。あえて分かりやすい嘘を吐くことで、これ以上聞くなと暗に示す。 『家族』は自分に甘いのと同時に、かなりの過保護である。自分との関係を思ったら致し方ないことだとしても、散歩で息抜きぐらいはしたい。 「……枝で切ったにしてはずいぶん深い傷のようでしたけど? ……まぁ良いでしょう。一件依頼がきていますので、和馬が落ち着いたら取り掛かりますよ?」 「分かった」 見逃してくれたことにホッとしていると、竜之介は頭をぽん、と撫でて部屋を出て行く。 (仕事か……) 和馬は横になったまま天井を見上げた。 和馬たちの仕事とは、人や物に憑いた悪いものを祓う祓い屋だ。その他にも占い、まじないなどもやっている。と言っても、そこらの祓い屋ではない。昔は(まつりごと)に携わっていたほどの力を持った一族で、四つの家からなる彼らは、ずっとその血を守ってきたのだ。 一つは結城。和馬が属する家系。 一つは木下。竜之介が属する家系。 一つは有馬。無口な男、佑平(ゆうへい)が属する家系。 一つは(いしずえ)。今やその家系のものはおらず、かつて攻撃系の術を得意とした家系。 世界中のその手の人たちが匙を投げた厄介な仕事でも、ここに来れば間違いないと言われるほどの実力なのだ。 しかし昔は神の使いとして尊敬すらされていたのに、身分制度が薄れると同時に、一族の存在も薄くなっていった。目に見えない力を操ると言っても、今では信じてもらえないことが多いので、田舎でひっそりと営業している。 (やっぱり、人間と違うものを感じ取る敏感な人もいるみたいだし) 和馬は先ほどお世話になった男性を思い出す。穏やかな雰囲気で優しそうだった。実際、病院に行かないと言った和馬の言い分も聞いてくれたし、事情も聴いてはこなかった。 それが和馬にとってすごくありがたかったのだ。 人間離れした自分の容姿をじっと観察するような彼の目に、和馬は申し訳なく思って目を伏せる。 そう、一族以外の血を受け付けず、ずっと四家の中で婚姻を繰り返し、結果どんどん始祖の要素が濃くなっていく人間離れした容姿。 そして、邪気を払う術──正確には、風を操り悪いモノを祓うのだが──を使う特別な力。 最大の特徴は力が昂ると背中に純白の羽が生えることだ。 その姿から、和馬たちは天使族と呼ばれている。 「天使族の……末裔、か……」 しかも自分たちが負った運命は、一族の存続もかかっている。そのためにも、自分に怪我をさせた犯人を何とかしないと。 まずは体の回復からだ、と和馬は目を閉じ、体を休めることに集中した。

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