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32 和馬視点

あれから、紘一は半年間寝込むことになった。一瞬とはいえ、天使族を体に入れた副作用と、レイの持つ邪気に毒されたようだ。自分がいながら、人間を――それも愛する人を危険にさらしてしまったことを、和馬は猛省している。合わせる顔がなくて、紘一の面倒を竜之介たちに押し付け、逃げるようにして山奥の小屋で過ごす日々だ。 電気とガスはかろうじて通っているこの小屋は、自然に囲まれていて和馬にとって過ごしやすい。雲一つない空を見上げながら、洗濯物を干そうと外に出ると、小鳥たちが寄ってきた。 彼らは翼がある和馬を仲間と見ているらしい。すぐに仲良くなり、毎日和馬の肩や頭で、楽しそうに会話をしている。 (っていっても、最近は餌場の話ばっかりだけど) 和馬が苦笑すると、一台の車が小屋の前で止まった。見覚えがある車に、ドキリとする。 降りてきたのはやはり竜之介と佑平だった。 「お久しぶりですね、和馬」 にこやかに歩いて来た竜之介は、相変わらずだ。佑平も、無言で付いて来るのが変わっていなくて、笑ってしまう。 「どうしたの、二人とも」 ここに来た理由を知らない訳ではないけれど、ついそんな質問をしてしまった。 「私は和馬に会いに来たんですよ」 「俺は和馬を迎えに来た」 それぞれ違うことを言うのにも吹き出してしまう。彼らはレイとのことが片付いてから、正反対の意見を言うことが顕著になった。お互いがお互いに合わせていたと言い張るが、原因は自分にあると感じている。 「だから、何度も言いますけど、あの屋敷に人間がいること自体、良くないんですよ」 「アイツはもう半年以上もあそこで過ごしてる。邪気もほとんど消えているから問題ない」 「そういう問題ではありません。私が心配しているのは、和馬への影響です」 「俺はアイツが和馬に良い影響を与えると思っている」 普段喋らない佑平が竜之介と喧嘩を始めたのを見て、またか、と和馬はため息をついた。 紘一は、病気ではない原因で寝込んでいる間、和馬たちの屋敷で療養していた。 紘一を気に入らない竜之介は、彼が治ったとたん追い出そうとし、逆に気に入っている佑平は、一緒に住まわせようとする。 今まで喧嘩する場面を見せて来なかったのは、和馬が気にするからだろうということは分かる。しかしレイとのことが片付いた今、遠慮する必要はないと思っているようだ。 「とにかく、柳さんから完全に邪気が消えたかどうか、和馬に確かめてもらう必要があります」 「快気祝いに食事でもしよう。……というわけで」 「屋敷に来てください」 「屋敷に来い」 結局最後は意見が一致したことに和馬は目を丸くする。しかし、それが気に入らなかったのか、竜之介と佑平はお互いちらりと一瞥し、その後は黙ってしまった。 その見事なまでのシンクロぶりに、和馬は思わず吹き出す。 「仲良いね、二人とも」 「……良くありません」 「……」 和馬が笑い出すと、竜之介は幾分ホッとしたようだった。反論も語気が弱いが、佑平はいつものようにだんまりだ。きっと、一緒にするな、とでも思っているのだろう。 「一緒に来てくれますか?」 そう、結局は二人とも、和馬と一緒にいたいのだ。ただ、和馬が屋敷にいることを嫌がるので、遠慮がちに誘ってくる。 和馬はゆっくり、深く息を吸い込んだ。 (……うん。僕は誰も選ばない。そう決めたし、これからもそうだ) 自分の気持ちが揺らがないことを確信して、和馬はうなずく。 「うん。じゃあ、準備するから」 そう言って、和馬は洗濯物を手際よく干し、小鳥たちに挨拶をした。

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