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01-3.
「相手の条件がわからない以上は手の打ちようがないでしょう」
レオナルドは握りつぶされた手紙を広げる。
「交渉の場に伯爵を出せと要求すると思います」
成人を迎えているとはいえ、人嫌いを拗らせて学院の入学を拒否し、伯爵邸から出ようとしなかったことで有名となっているレオナルドの言葉に耳を貸す相手とは限らない。
「当事者となっているアルを連れて来いと言われるかもしれません」
手紙の隅々まで目を通す。
交渉をする相手を指名している可能性を捨てきれなかった。
「……変な内容ですね」
相手を指名するような文章はなかった。
書かれているのは、アルフレッドが侯爵家の長男の婚約者を寝取ったことに対する処罰を検討するべきだという内容と、交渉の場にて提示される条件を無条件で飲み込まなければ三億以上の慰謝料を請求するという脅迫紛いの内容だけだ。
……伯爵領の権利を根こそぎ奪うつもりか?
頭を過った内容を口には出さない。
……ありえないな。伯爵領の権利を奪うことで侯爵家に利益が生まれるわけではない。
カルミア伯爵領は栄えているわけではない。
代々伯爵家が治めている領地であるというだけだ。他の伯爵家と比べると贅沢をしないように気を使いながら、なんとか領地経営を回しているだけだ。名産品はあるのにはあるのだが、それが国内で有名になっているわけではない。
侯爵家が手に入れたところで維持費ばかりがかかる荷物になるだけだ。
「私はどうすればいい?」
トムは情けない声をあげた。
「とりあえず、流行病で伏せていることにしましょう。この時期なら、毎年、夏風邪が流行します。特効薬のある病ですが、万が一、侯爵家の人間に移してはいけない為に自主的隔離生活をしているということにしておきましょうか」
「それはいい。そうしよう。ついでに、アルフレッドは私の付き添いをしていることにしてしまえばいい」
名案を思い付いたと言わんばかりの表情を浮かべるトムに対し、レオナルドは頷いた。
「名案だと思いますよ、父上」
トムには、レオナルドの発案を掠め取るような真似をしている自覚はないと知っているからこそ、レオナルドは指摘もせずに肯定した。
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