＊　＊　＊ 「この度は愚弟がご迷惑をおかけしました」 「伯爵は？」 「父上は体調が優れないようでしたので、代理として私が話し合いに参加させていただくと連絡させていただいた通りです」 　レオナルドは誠意をもって対応していると言わんばかりの表情を浮かべ、正面に座っている青年、ジェイド・サザンクロスに対して詫びの言葉を口にする。 「そうか。末っ子がやらかしたことを聞いて熱でも出たか？」 「いいえ。伯爵領内で流行中の夏風邪にかかってしまったようです。別邸にて療養をしておりますので、ジェイド様とお会いすることは難しいようです」 　レオナルドの言葉に対し、ジェイドは頷いた。 　納得したのだろうか。レオナルドは少々引き攣った笑みを浮かべながら、ジェイドの様子を窺う。 「そうか。それは残念だ」 　……まさか、当事者が顔を出すとは。 　侯爵家から送られてきた手紙の内容を鵜呑みにしなくて正解だった。 　手紙の内容通りならば、ジェイドの婚約者はアルフレッドに寝取られたことになる。酷い裏切りにあったことにより傷心中の息子の代わりに怒りが隠せなくて手紙を送りつけたかのような内容を書いたのは、ジェイド本人だろう。 　……父上とアルには隠れてもらって正解だったな。 　伯爵家を謀るつもりだったのだろう。 　正面に座っているジェイドは傷ついているようにはとても見えない。 「末っ子は？」 「父上の付き添いをしております」 「呼んでもらえるか？」 　ジェイドの問いかけに対し、レオナルドは反射的に黙ってしまう。 　急遽、開かれることになった対談の原因を作ったアルフレッドは療養中のトムに付き添わせている。いや、ジェイドの目に入らないように隔離されていると言った方が正しいだろう。 「申し訳ありませんが、弟も流行病に感染をしている危険性があります。ジェイド様に病を移してしまう可能性がありますので、本日はご遠慮願いたいのですが、よろしいでしょうか？」 　トムはアルフレッドを監視する為に療養をしているようなものだ。 　それらはレオナルドが侯爵家への対策として考えたものであることを悟らせるわけにはいかない。