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01ー6

 ……アルがいなくてよかった。  アルフレッドは騎士団の寮に寝泊まりをしている。セドリックによって呼び戻されることがなければ、しばらくは伯爵邸に戻ってこないだろう。 「どうして、そんなことを言うんだい?」  セドリックは立ち上がり、レオナルドの震えている手に触る。  それ以上、強く握りしめてしまうと掌を傷つけてしまうと幼い子どもに言い聞かせるような仕草をするセドリックは戸惑っていた。 「レオ。僕は苦しんでなんかいないよ」  戸惑いながらも、大切にしている弟が無意識のうちに自分自身を傷つけるような行動をしてしまっていることを見過ごせなかったのだろう。 「泣かないでくれよ。僕が一緒にいるから」  セドリックは笑いかける。  指摘をされて、レオナルドは涙を流していることに気付いた。そして、それを拭うこともせず、重ねられている手を振り払った。 「僕が見ている夢は僕のせいなんだ。レオのせいじゃないんだよ」  悪夢を見続けていることを知られているとは思っていなかったのだろう。 「ずっと気にしてくれていたんだね」  セドリックはレオナルドの頬を伝う涙を拭う。  申し訳なさそうな顔をするセドリックの気持ちは、レオナルドには伝わっていないだろう。 「だから、出ていく口実を探していたの?」  セドリックの問いかけに対し、レオナルドは首を横に振る。 「違うの?」 「……違う。俺が決めたことなんだ」 「そっか。残念だよ。上手くいかないものだね」  セドリックはため息を零した。 「こうなったら仕方がない。思いっきり殴り飛ばしてこよう」  覚悟を決めたかのようにセドリックは言った。  ……は?  レオナルドは反射的に顔を上げる。 「この時間なら騎士団本部にいるかな。大丈夫。侯爵家には適当に言い訳を並べた手紙を送りつけて解決するから心配はいらないよ」  独り言のような口調だが、セドリックの中では決定事項なのだろう。 「ちょっと出かけてくるね」  さっさと部屋から出て行こうとするセドリックの背中を見つめ、ぼんやりとしていたレオナルドは慌てて立ち上がった。

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