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「ジェイドは変な奴だ。屑野郎だと思う。兄上が心配をする理由もわかる」  レオナルドはセドリックの背中から離れる。  周囲の目を気にせずに話をするのは何歳の時以来だろうか。 「でも、俺はジェイドといると決めたんだ」  十年間、強制的に閉じ込められ続けていた反動のようなものかもしれない。  何度も願いを口にしても叶えられることなく、諦めるしかなかったレオナルドにとってジェイドは救世主のようだった。  目的の為ならば権力を振りかざし、手段を選ばず、他人を利用するような男だ。  世間ではジェイドの振る舞いを救世主とは呼ばないだろう。歪んだ執着心を向ける異常者だと影口を叩かれたとしてもおかしくはない振る舞いだ。  それすらも愛おしいと感じてしまうレオナルドも歪んでいるのかもしれない。  それでも、レオナルドには押し込められた鳥籠を壊して、自由を与えてくれたように思えて仕方がない。 「兄上が反対をしても俺は侯爵家に嫁ぐ。ジェイドと一緒にいる為なら手段を選んでいられないというなら、俺はなんだってやってやる」  覚悟は決めた。  宿泊をしたのにもかかわらず手を出さず、レオナルドのことが愛おしくて仕方がないのだと愛を囁いたジェイドを信じることを選んだのは、他でもないレオナルドだ。自分自身でなにかを決めたのは十年ぶりだった。 「……はぁ」  セドリックはため息を零した。  負けたと言わんばかりの表情を浮かべて振り返る。  セドリックの背中に向けて必死に語りかけたレオナルドの言葉に応えるかのように、セドリックはレオナルドの顔を見る。 「本気なんだね」  セドリックはレオナルドの頭を撫ぜた。 「馬車は準備をしなくていい。出かけるのは止めるから」  手配をしようとしていた執事に用件を告げる。  その言葉を聞き、安心したような表情を浮かべたレオナルドを見たセドリックはまた大きなため息を零した。 「僕の負けだよ」  勝負をしていたわけではない。  ただ、セドリックはようやく諦めることができたかのように言った。 「運命には抗えないんだね」  こうなることがわかっていたかのような言葉だ。  頭を撫ぜるのを止めて、セドリックはレオナルドを抱き締める。

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