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01-9
「レオ。僕の可愛い弟のレオ」
それは幼い頃から何度も口にしていた言葉だ。
腕の中に納まりきらないレオナルドを大切に抱き締める。
「僕はいつだってレオの味方だから。それを忘れないで」
その動作はいつだって優しかった。
レオナルドの言葉を聞き入れず、一方的に友情を破綻させるようなことをした時もセドリックは優しかった。
「なにがあっても死を選ばないと約束をしてほしい」
セドリックの声が震えていた。
「辛い時は僕に手紙を送って。僕に言いにくいならアルでもいい。誰でもいいから助けを求めてほしい」
こうなることがわかっていたのだろうか。
侯爵家からの申し出を断ることはできない。
仕組まれていたこととはいえ、伯爵家に非があるのは事実だ。
その事実がなくならない限り、どうすることもできないのだということはセドリックもわかっていた。
「死だけは選ばないで。レオ。それは誰も望んではいないことだと忘れてはいけないよ」
……俺が死ぬのが怖かったのだろうか。
セドリックが見続けてきた悪夢の正体を掴んだ気がした。
……兄上の目には死の予兆すら見えるのかもしれない。
昔から未来を予知しているのではないかと思わせるような言動があった。
伯爵家が手を出して失敗をする事業を言い当て、手を出せば数年後には必ず成功をする事業を提案していた。
その成果の報酬として、セドリックはレオナルドとアルフレッドを学院に通わせず、伯爵邸にいさせることを提案したのだ。
その時のセドリックは年相応の振る舞いではなかったことを思い出す。
「わかった。約束をするよ」
レオナルドはセドリックの背中に腕を回す。
「自分で死を選ぶようなことだけはしないと名に誓ってもいい」
今年中にはカルミア伯爵家の名を捨て、サザンクロス侯爵家の家名を名乗ることになるだろう。
「カルミア伯爵家の名に誓うよ。だから、心配しないでくれ」
手放してしまうことがわかっている名に誓う意味などない。
子どもでもわかるような冗談の一種だ。名に誓うという行為の重要性とその時に恥をかくことがないように教養として身につけた。
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