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 それがわからない相手ではないと知っていながら、レオナルドは笑いながら言った。 「俺は死に行くわけじゃないんだから」  レオナルドはゆっくりと腕を降ろした。  それに応えるかのようにセドリックもレオナルドを腕の中から解放する。 「わかった。その言葉を信じるよ」  セドリックはまたレオナルドの頭を撫ぜる。  滅多なことでは会話をしない両親とは違い、セドリックは弟たちと積極的に触れ合うことを好む。特に七歳下のレオナルドに対しては過剰なまでに愛情を注いでいた。 「でも、明日は話をさせてもらうよ。迎えに来るんだろう?」 「……知ってたのか」 「うん。父上から聞かされていたよ」  セドリックの眼は穏やかだ。  その心の中では何を考えているのか、わからない。  ……それで大人しく引いたのか。  レオナルドの言葉を聞き入れ、それに応えようとしているわけではないことには気づいていた。十年間、頑なにレオナルドの為になると言い続けて監禁生活を強要してきたセドリックの考えが掌を反すように簡単に変わるわけがない。  ……きっと、本音でもあるんだろうが。  死を選ばないでほしいと何度も口にしていた。  その言葉は本物だろう。  セドリックが隠し続けた本音が僅かに零れ落ちただけだ。 「喧嘩はしないでくれよ」  レオナルドは困ったように笑う。 「兄上が勝てる相手じゃないのはわかってるんだろ」 「そうかな。僕も身体を鍛えている方だけど」 「俺にも負けるだろ。最低でもアルに勝てないと相手にもされないと思う」  セドリックの背後で手続きの中止を告げられた使用人たちが慌てて動き出すのを確認する。この場を離れてもセドリックが独断で騎士団に向かうことはないだろう。 「そうだね。僕たちの中だとレオが一番強いもんね」 「……そうだけど。アルの前では言わないでくれよ」 「わかっているよ。こういう時に限って帰ってくるからね」  セドリックは周囲を見渡した。

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