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 第四騎士団に所属をしているアルフレッドに聞かれてしまうことを警戒したのだろう。実家である伯爵邸から騎士団に通うアルフレッドを怒らせるのは、セドリックも避けたいようだ。 「そういえば、兄上はアルの時は反対をしなかったな」  レオナルドは不意に思い出したように言った。  兄弟の中では強くも弱くもないアルフレッドが所属をする第四騎士団の主な仕事は、首都周辺の警備だ。出入りの激しいイキシアの商人に紛れた犯罪者を相手にすることが多く、危険も伴う。  弟たちに対して過保護の傾向が強いセドリックが反対しなかったのは、レオナルドにとって予想外の出来事だった。 「うーん。特に理由はないんだけどね」  セドリックは二年前のことを思い出しているのだろうか。 「アルは世間知らずでお坊ちゃん気質の末っ子だからね。酷い目に遭う前に騎士団で世間の常識を叩きのめされた方が良いと思ったんだよ」  セドリックの言葉に対し、レオナルドは冷めた目を向けた。  ……世間知らずに育てたのは兄上だろうが。  貴族としての礼儀作法や常識は叩き込まれている。  レオナルドよりも社交界に参加する回数が多いアルフレッドではあるが、それは世間一般では最低限の参加だけをしていると思われる程度のものだ。  貴族の子女、子息が通うことが一般的であるとされている学院の入学を拒絶した変わり者兄弟の末っ子が騎士団に入団したと聞けば、興味を抱く者も少なくはないだろう。 「その結果、最悪な状況になった」 「うん。手紙を読んで気絶するかと思ったよ」  第四騎士団に所属をするのは貴族だけではない。  平民出身の騎士もいる。その為、頻繁に行われる飲み会は誰でも自由に出入りすることができる店を選ぶ傾向があった。 「あの尻軽変態女装野郎に引っかかるとは思ってもいなかったよ」  セドリックの口から飛び出した言葉にレオナルドは反応ができなかった。 「アルは誰よりもかわいいよ? 末っ子気質の甘えっ子だからね。僕もレオも甘やかしてきたし、父上と母上も僕たちの時にはしなかったことだってしてきたよ?」  セドリックは九歳下のアルフレッドを溺愛している。  目にいれても痛くないと言わんばかりの溺愛の仕方だ。それは三兄弟の中でもっとも体格が恵まれており、腕っぷしには自慢があるのだと言わんばかりの筋肉を身に付け始めている二十歳の青年に向ける言葉ではなかった。

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