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01-12.
「だから、女装癖のある変態屑野郎なんかを可愛いって思わないと信じてたのに。手紙を見てびっくりしたよね」
セドリックはため息を零した。
……あの変態は有名なのか。
前触れなく伯爵邸を訪れ、礼儀作法など知ったことではないと言わんばかりの振る舞いをしていたクリスの姿を思い出す。
思い出すだけで腹が立つのは仕方がないだろう。
「兄上。アルのことで一つ気がかりなことがある」
冷静になって思い返してみれば不自然な点がいくつもあった。
……出会いは問題だが。それでも、愛があるのならば認めようとは思っていた。
相手が妊娠をしていると告げた時の表情は恐怖に怯えていた。
そして、そのような事実がないと判明し、被害者であるはずのアルフレッドはクリスを庇うかのような言動まで見せ始めていた。
素直になれないだけの恋人に会うかのような振る舞いにも見えた。
それらは明らかに異常だった。
「情緒不安定になっていた。相手に好意を寄せているかのような振る舞いをしながらも、怯えていた。恐らく、その自覚もない」
レオナルドの言葉を聞き、セドリックは眉を潜めた。
セドリックの滞在中は騎士団の寮に泊まると宣言をした通り、アルフレッドは帰宅をしていない。
「薬を使われている可能性は?」
魔力を持つ者が、本に記された通りの手順を正しく行えば魔法薬は完成する。
その品質は魔法使いの実力に左右されるものの、目的に適していると判断すれば多少は質の悪いものでも妥協する者も少なくはない。
「恐らく、惚れ薬の類は使われた可能性が高い」
レオナルドはアルフレッドの言動に違和感を覚え、アルフレッドに頼まれた避妊薬を渡した時に最低限の義務だと言い聞かせて身体を確認した。
「中毒性のある魔法薬の特徴は見られなかった」
「そう。不幸中の幸いだね。あの手のものは解毒に時間がかかるから、使われていなくて良かったよ」
中毒性のある魔法薬が使われた場合、多くは特徴的な痣が現れる。
原因は分かっていないものの、魔法薬に含まれる成分による幻覚等によるものだろうとされている。それを確かめる為に腕や足、腹部などを確認した。
「購入記録がどこにもなかったんだ。自作した魔法薬を使われた可能性がある」
レオナルドは隠し持っている杖を振るい、魔法で呼び寄せた紙をセドリックに渡した。
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