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「義姉上。珍しい色ですね」 「あら。色の違いがわかるなんて素敵だわ。新しく取り寄せてみたの」 「それはどうも。よく似合っていますよ」  レオナルドはシェリルの爪に視線を向けた。  メイドによって丁寧に色が塗られていく爪はシェリルの自慢の一つだ。気分に合わせて色を変えさせている。 「レオナルドを見習いなさい。あなた、わたくしが何色を塗らせても気に留めてくださらなかったでしょう? わたくしでなければ頬を殴られていても仕方がないようなことですわよ」  セドリックは色が変わっていても反応を示さなかったのだろう。  指摘されてしまい、少々、気まずそうに視線を逸らした。 「頬を殴るようなご令嬢はシェリルだけだと思うけど」 「まあ。なんてことでしょう。後から全力で殴ってさしあげますわ」  シェリルは上品に笑う。  幼い頃から家の都合で婚約を結んだ二人はそれなりに仲が良い。  自分の好きなことを中心にして生きているシェリルと弟たちが関わると他のことを放り出してしまうセドリックは、ある意味では似た者同士なのだろう。 「殴るならあの男にしてくれよ」 「それはご自分でどうぞ。わたくし、副団長を務めるような殿方を殴れるような腕力はございませんわ」  シェリルの言葉にセドリックは笑った。 「いつもの冗談かい? シェリルは僕より強いだろ?」  セドリックは本気で言っているのだろう。  なんでも言うことができる相手に気を許しているのかもしれないが、シェリルの表情が険しくなっていることにすらも気づいていない。  ……そういうことを言うから殴られるんだろ。兄上。  今日はその光景を見ることはないだろう。  それでも、頻繁に繰り広げられている光景を思い返す。 「お客人の前で恥をかかせられなくて残念に思いますわ」 「え? シェリル、配慮する心なんてあったの?」 「見てわかりませんの? わたくし、爪を整えている時には動けませんのよ」  シェリルは舌打ちをした。  上品な言葉遣いが少々乱れていても、それを指摘するようなものはいない。  ……話が終わったのか。  ジェイドと目が合う。トムとアリシアの話に対して疲れを見せることもなく、ジェイドはレオナルドが座っている場所に向かって歩き出した。

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