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02-1

 翌日。ジェイドが伯爵邸を訪ねてきた。  早々にレオナルドを連れて伯爵邸を出る予定だと口にしているジェイドは、珍しく伯爵として対応をしているトムの話に付き合わされている。息子たちに興味がないかのような振る舞いが多いトムだが、いざとなったら名残惜しくなったのだろう。  律儀にトムの話に付き合っているジェイドを見ているレオナルドの両隣は、今にも殴りかかりそうな顔を隠そうともしないセドリックと話を聞きつけて騎士団の仕事を早退してきたアルフレッドが座っている。 「男連中がごめんなさいね。ジェイドさん」  今にも泣きだしそうな勢いで語るトムの腕を強引に後ろに引っ張り、話に割り込んだのは伯爵夫人、アリシア・カルミアだった。 「この人ったら。普段はレオナルドのことを構いもしないんですよ?」  アリシアはのんびりとした口調で話す。 「なにより殿方の元に嫁ぐなんて思いもしなかったから。大事に育てた息子をとられるのが寂しくて仕方がないんですわ。どうか聞き流してくださいね」  同性婚は法律で認められている。  諸外国に同調するように法律が整備されたのは、二十年ほど前だ。アリシアとトムが結婚をした頃、結婚は異性とするものであると考えるのが一般的だった。  今では表立って同性婚を否定することは禁じられている。  法律で禁じられているからこそ口にしないだけであり、国民の中には同性愛に対して否定的な考えを隠し持っている者も少なくはないだろう。 「母上って反対派?」  アルフレッドは菓子を摘まみながらそう言った。  結婚を反対しても手遅れだということを理解したのか。先日、会った時に比べて顔色も明らかに改善されている。 「アル。そういうことは言わないものだよ」  セドリックは菓子を食べながら話をすることを咎めず、法律に触れるような問題だけは言うべきではないと訂正した。  間に挟まれている状態のレオナルドは無言だ。  下手なことを言って刺激をしたくないのだろう。 「そうよ。情勢が不安定な時に危ない発言は止めてちょうだい。末っ子の問題でわたくしたちが振り回されるのは勘弁していただきたいわ」  セドリックの隣に座っているシェリルは足元に跪く姿勢で爪を整えているメイドに目を向けることもなく、言い切った。  兄嫁を含めた四人が一列に並んで座っている状況に触れるものはいない。

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