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01-5.

「二人とも、落ち着いて聞いてくれ」  トムの顔は険しいままだった。  それでも、椅子から立ち上がり、震える腕でアリシアを抱き締める。 「レオナルドが死んだ」  告げられた言葉は変えようもない事実だった。  ……父上は知っていたんだ。  セドリックは二度目となるレオナルドの死を告げる言葉に耳を塞いでしまいそうになる。それを堪えるように唖然としたまま動けない末弟のアルフレッドを抱き締めた。 「ジェイド公子によって殺害された。それを証言する者は多くいる。恐らく、大勢の前で犯行が行われたのだろう」  淡々とした言葉だった。  トムの言葉を聞き、アリシアの眼からは大粒の涙が零れる。 「……レオナルドは、どこにいますの?」  アリシアはトムの腕の中で声をあげる。 「あの子に会わせてくださいませ」  その姿を確認するまでは死を認めることすらもできない。  アリシアの言葉の意味を誰もが理解をしていた。衝撃的な言葉を聞かされ、呆然としているアルフレッドも状況を理解してしまえば同じことを言うだろう。  ……あの写真を見る限り。  セドリックは先ほど見た写真を思い出す。  ……見られない状況になっている可能性が高い。  ジェイドの部屋は悲惨な状況だった。  レオナルドがそこにいた可能性は高い。 「……遺体は見つかっていないそうだ」  トムはゆっくりとアリシアは腕の中から解放する。 「最後の目撃情報は寮の廊下だったそうだ。周囲の制止を振り切り、部屋に連れ込まれるレオナルドの姿を証言する者が何人もいた」  トムは視線を机に向ける。  机の片隅に飾ってある写真立ての中には笑顔のレオナルドがいる。 「ジェイド公子の部屋をこじ開けようと試みた者もいたそうだが、誰一人、凶行を止めることができなかった」  机の上に散乱している書類の中には、レオナルドの死を決定付けるものが含まれているのだろう。それでも諦めることができず、従者の持ってくる証拠を待っていた。  せめて、その死に顔を見るまでは認められなかったのだろう。

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