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第十二章・8
「どうするんだ? その花びらを」
「朝の紅茶に、浮かべます」
貴士の手から渡されたものは、悠希にとっては何もかもが素敵な贈り物だった。
この花びらも、そう。
きっと、運命が貴士さんの手に取らせたものなんだ。
「桜の紅茶か。私も、いただきたいな」
「用意、しますよ」
こうしていると。
こうして、何気ない会話を交わしていると。
(何だか、もう結婚したかのようだ)
そう考えた途端、貴士の頬は少し赤くなった。
「貴士さん、どうかしましたか?」
「い、いや。なぜだろう?」
「お顔が、少し赤いようです」
風邪をひくといけないので、窓を閉めますね。
そう言う悠希をしばしとどめて、貴士はもう一度彼と春風を全身に浴びた。
温かく、優しく、柔らかな春風。
「まるで、悠希のようだな」
「何がですか?」
「この春風が、だ」
照れた悠希だったが、貴士の手を取り言葉を返した。
「僕には、貴士さんが春風です」
冷たい冬を溶かし、明るい未来を届けてくれた、希望の風。
二人で窓辺に立って、風を受けた。
互いの風を感じながら、微笑み合った。
眩しい春の光を、浴びた。
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