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第十二章・7

「……貴士さん、起きてください」 「……ん? ああ、朝か」  素敵な夢を見た朝の目覚めは、ひどく気分が良かった。 「いい夢を見たよ。悠希が出て来た」 「僕が、ですか?」 「うん。一緒に、空を駆ける夢を見た。  爽快だったな、と貴士はご機嫌でベッドから降りた。 「奇遇ですね。僕も、貴士さんと一緒の夢を見ました」 「ほう」 「僕は、貴士さんと一緒に、海をダイビングする夢です」  それはいい、と貴士はカーテンを開けた。 「今度、そんな夢を見てみたいものだ」  明るい春の日差しが、寝室いっぱいに注ぎ込む。  窓を開け、貴士は外の空気を室内に取り入れた。  大きくカーテンがたなびき、桜の花びらが舞い込んでくる。  貴士は黙ってその一つを、指につまんだ。 「以前なら、部屋が散らかると不快に感じていたが」  今は、違う。  世界の全てが、輝いて見える。 「悠希。髪に花びらが付いているぞ」 「え? あれ?」 「取ってあげよう」  その花びらは、悠希が手を差し出すので、彼に渡された。

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