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第十二章・6
空を飛ぶ夢を見た。
空を飛ぶ夢を見るのは、これが初めてではない。
そして夢の中で、これは夢だ、と認識することも珍しくはない。
貴士は、そう考えて、ただ空中滑空を楽しんだ。
いつもなら、街中を飛ぶ夢なのだが、今回は勝手が違っていた。
眼下には、青い海。
どこまでも続く、一面の大海原。
そこに落ちる自分の影を追いながら、貴士は飛んだ。
「ん?」
ふと見ると、波間に浮いている人影がある。
どうしようか。
手を差し伸べるか、そのまま捨ておくか。
「そんな選択は、決まっている」
貴士は、低く降りた。
両手を上げて溺れていたのは、悠希だった。
「どうした、悠希 飛び方を、忘れたのか?」
「僕は、貴士さんが来るのを待っていました」
悠希は、貴士が差し伸べた手を取って、大きく飛翔した。
「ははは! 愉快だ!」
悠希に追い越され、また追い越す。
そして、手を取り合って飛ぶ。
二人で風を切り飛ぶことは、独りで飛ぶよりずっと楽しかった。
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