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第2話

  正午を過ぎても店の前には途切れる事なく列を成している。店内は所狭しに客が溢れ、帰れば同じ数入店するというルーティンが数時間続いていた。  「あの〜最近寝つきが悪くて寝てもすぐ起きちゃうんです。スッキリ眠れるアロマってありますか?」  「はい。不眠でしたら……こちらはどうでしょう。こちらの香りはご存じのラベンダーですがこちらを3滴、ベルガモット2滴、カモミール・ローマン1滴をブレンドして……お客様……?」    つらつらと話す典登の顔に見惚(みと)れる女性客には説明な声は届いていないようだ。  「あっ、、ごめんない!それ全部買います!……あと、ここにサインもらえますか?」  「サインなんて大層(たいそう)なものはないですが名前書くくらいなら大丈夫ですよ」 優しい微笑みを投げかけて雑誌のページに名前を書いていく。  「あ、ありがとうございます!」  「こちらこそ」 もはやアイドルのような扱いに少し戸惑うも、王子様のキラキラした癒しのオーラを振り撒きながら次々と客の列を(さば)いていた。  その後ろで(むら)がる客のお目当ては紘巳。 切れ長の目に大人っぽいクールで色気のある、いわゆるプレーボーイという言葉が似合う。  「お客様の言うリラックス効果があるオイルは多々あるんですが、もしかして多少エレガントな香りがする物がお好きですか?』  「どうして分かるんですか?凄〜い!」  『お客様から多少そういった香水の香りがするのでお好みなのかと』 言葉にしなくても客の好みをいい当ててしまう紘巳に客も全てを任せた。  「やっぱり二人すごいや」 会計と客の誘導を任されている爽。 どんなに混んでも一人一人丁寧にヒアリングしながらスムーズに完璧なオイルを提案するそんな二人を(はた)からひたすら感服させられていた。  「あの〜店内入っても?」  「あっ、すいません次に案内するんでもう少しお待ち下さい!」  オープンから休憩する暇もなく接客をし続け閉店時間過ぎてやっと最後の客を見送った。  「ありがとうございました」 ◆◇◆◇◆  キッチンに良い香りが漂っている。 それに釣られたようにお風呂上がりの紘巳が濡れた髪にタオルを被せて顔を覗かせる。 職業病なのか香りには敏感だ。  「あっ、ご飯もう少しかかるから待ってて」  『別にいいのに。今日は疲れてるから適当に買って来れば』  「好きでやってるだけだから。それに疲れてる時こそ栄養ある物食べないとね」 野菜を刻む音も軽快で慣れた手付きの典登。  『まぁ奥さんがそう言うなら従わないと』 背後から湿った髪の毛が典登の首に冷たくくっつく。体を寄せて腰に回した両手にぎゅっと力を入れた紘巳。  「ちょっ、今包丁持って危ないから……」  紘巳と典登は恋人同士だ。 付き合ってもうすぐ3年。一緒に暮らし始めて2年になる。元々は料理人だった典登はこの家の調理担当。     『今日さ、お客さんから番号聞かれた?』  「えっ?あぁ。あれはサインお願いされて書いただけでそうゆうのじゃないよ」  『でも満更(まんざら)でもなかったろ?綺麗な人だったし』  「あれ、もしかして嫉妬してる?」  『誰が嫉妬なんか』 手に持った包丁をまな板にポンと置くと振り返り向かい合って瞳を合わせた。  「それなら……番号教えてご飯にでも行けばよかった?」 そう言って小さなトマトを口に含んだ典登の(あお)るような顔に紘巳も答える。  『言うじゃん。出来るもんならやってみろよ』  噛み付くように強くキスをする。 くちゅくちゅと音をさせるとトマトが破れ口の中に広がった。トマトの汁がツーっと典登の顎まで滴るのをぺろっと舐めてキャッチした紘巳。  『甘い……残りはベッドで味あわさせて』  「えっちな旦那様だね」

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