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第54話 C-02 西名×琉加 ㉕

 遮光カーテンが開いた窓から陽の光が直接差し込む。いつのにか眠りについた温もりの中で目を覚ますと、広いベッドには僕一人がいた。レースカーテンがわずかに開いた窓から入り込む冷たい風に当たってふわふわと動く。  身体を起こして手を甲を額に置いて考えた。仕事でこっちまで来たんだっけ?一人で来たんだっけ?部屋の椅子に置かれた鞄に気づいた。見覚えある鞄を見てすぐ彼を思い出した。  『……琉加くん!?』  家の中に彼が居るんじゃないかと必死に探す。するとバルコニーの椅子に座る背中見えた。彼は穏やかな海を眺めて波の揺れに合わせる様に視線も揺らしている。つい声を上げて呼んでしまったけど、姿が見えて心からホッとした。声に反応して振り向いた彼の肩に近くにあったブランケットを掛けた。  「その格好じゃ寒いよ」  「……こんな穏やかな海初めてみました。なんだかすごく心地よくて、、でもここはどこでなぜ先生といるのか全く分からないんです」  オイルの効果が切れて二人は戸惑いの顔で見合っいる。それもそうだ、この7日間の記憶はすべて消えて今置かれてる現状がわかっていない。  「ごめん……僕にもわからないんだ。だけどここは僕の家が持ってる別荘だよ」  「別荘、、そこへ先生と二人で来たって事ですよね?でもどうして」  「わからないけど……ただ夢に瑠加くんが出てきたような気がするんだ」  「えっ!?実は僕もなんです!それで目覚めたら先生が隣にいて驚いて、、」  「そうなの?……もしかして同じ夢なのかな」  二人してなんだかわからない事を言い合っている姿が滑稽(こっけい)だ。記憶喪失になったような僕たちには考える時間が必要みたいだ。  「待って……今日は何日?」  スマホの日付けを見て今日は大事な手術が入っているのもを思い出した。難しい手術で院内でそれが出来るのは僕だけなのも分かっている。  だけどもう朝10時まさに手術の開始時間。とりあえず病院に電話しようと通話ボタンを押そうとしたが手が止まってしました。  「先生?、、大丈夫ですか?」  心配そうにこちらを見ている彼に躊躇した。本当はまた彼と話していたいし一緒にいたい。僕は本能のままに……スマホをポケットにしまった。  「あっううん。別に何でもないよ!今日は……仕事休みの日だったよ、、だから大丈夫」  「そうなんですか?」  「だから……まだ一緒にいられる。あっ!浜辺歩きに行かない?琉加くんの見た夢、どんな夢だったか聞きたいな」  「いいですね。僕も先生の夢気になります」  そして二人は浜辺を歩いた。"寒いね"とどちらかともなく繋いだ手は初めての感覚ではなく覚えのある温もりだった。 だけどいつどこで触れ合って覚えた手の感覚か思い出せない。それは現実ではなく夢の話だとしても今彼と二人でいる現実は変わらないのならそれでいいんだ。新しい二人の思い出はこれから作り上げていけばいい。 記憶は消えても心で感じた喜びは消える事はない。  電車なんて何年振りに乗っただろうか。東京までの車中から見る景色とはいつも違って見えてのは、重い過去の記憶とか我慢していた胸のつっかえがなくなった気がするせいか。 きっと彼とこの数日間に何かあった事は間違いないのだけど詮索するつもりもない。  ただ隣にいる彼を愛してるという真実だけ。 ◆◇◆◇◆  翌日、僕はいつもより早く出勤をした。病院の医師達や看護師達、そして患者に謝罪をする為。 昨日の事は父親の耳にも間違いなく入っているだろう。 大事な手術を何の連絡もせず放棄して全員に迷惑をかけてしまったんだ。怒られるだけの問題ではなく院長失格だ。どんな処分でも受け入れるつもりだ。  もちろんまだ誰も出勤していない院内の電気を付け清掃から始める。部屋を一つずつすべて綺麗し、最後はトイレまでピカピカに磨いた。 この状況の今こんな事を感じるのはおかしいけれで、この病院が大好きでこの仕事に誇りを持っている。 これもきっと夢の中で起きた出来事のせいだろうか。だけど今日でここは僕の居場所ではなくなるんだ。  「あれ?院長?何してるんですか?」  「……おはようございます」  一番に出勤したベテラン看護師が待合室のガラス拭きをする僕に声をかけた。僕は申し訳なくてろくに目も見ずに挨拶をした。 何て言ってお詫びすればいいか。覚悟は決めてきたはずなのに、いざ一緒にここまで頑張ってきたスタッフを前に言葉が出なくて尻込みして黙ってしまう。  「あの……昨日は」  「いいですよー、そんな事しなくて!それより体調はもう良くなったんですか!?」  「、、体調って?」  「いえ、だって昨日熱が出て休んだじゃないですか。そう銀座院の院長が言ってましたけど」  「昨日兄貴がここに来たんですか!?」  「はい。弟が熱で寝込んでるから代わりにって、朝イチの患者さんの手術は銀座の院長が行いましたけど……ご存知なかったんですか?」

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