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第53話 C-02 西名×琉加 ㉔
「大丈夫?のぼせてない?」
「心配し過ぎですよ」
「誰かさんが一度ここで倒れたからねっ!一応気を使ってんの」
「あー!それはもう忘れて下さい」
バスルームから出てベッドの上で少し赤い彼の顔に手を当てながら茶化すように言った。色んな事があり過ぎた7日間はこの暖かいベッドの中で彼と向かい合って笑いながら終える。
だけど最後に彼に話しておきたい事があった。
「あのね。琉加くんに聞いて欲しい話があるんだ」
「えっ?何ですか?」
「何て言うか、、僕の高校時代の話。子守唄程度に聞いてくれればいいんだ」
「はい。わかりました」
ベッドの高いヘッドボードにもたれ僕は昔話をする様に今までも脳裏に離れない高校時代の話を始めた。彼も隣に並び顔をこちらに優しい顔を向けた。
「僕が高校二年生で17歳の時ー……」
都内の公立高校に通っていた僕は二年生の時にクラスメイトに守屋 と言うやつがいた。目立つグループでもガリ勉グループでもない普通のやつだった。話すようになったきっかけは前後の席になった二学期の時。
守屋は顔にコンプレックスを抱えていて、ある日こっそりとその事を僕に教えてくれた。僕が美容外科医の息子と知って相談してきたんだ。
未成年の手術には親の承諾は必要で彼に伝えるとそれは無理だと言われた。だけど彼はどうしても!と引き下がらなくて僕は祖父や父に相談した。
だけど法律に反するのは受けられないと当たり前に突っ返された。
「だから父の言葉そのままを守屋に伝えてお願いを断った」
「……それでその人どうなったんですか?」
「彼はー…それから3日後に自殺したんだ」
「えっ、、自殺を?」
「そう。守屋は僕の知らないところでいじめられていたんだ、、容姿を理由に。家庭にも色々問題があったみたいで居場所をなくした彼は自ら命を……」
僕は誰にも言わなかった過去の辛い思い出を初めて彼話した。不意に流れた涙は頬を伝って布団に落ちた。
「僕があの時もっと説得してれば、、そして早くいじめにも気づいてれば……」
「先生、、そんな風に自分を責めないで下さい。先生のせいじゃない」
彼は僕の涙を指で拭きとってゆっくりとおでこを合わせた。僕は彼の額から伝わる温かさと優しいさにすがった。
「今でも、、新しい患者が来る度に守屋のSOSを受け取れなかった事を思い出す。手術をして患者の喜ぶ顔を見てホッとするんだ。守屋への償いが出来たような気がして……」
流れた涙は止まらなくて彼が僕の頭を撫でて泣いた子どもをあやすようにもう一つの空いた手は包み込んだ背中をトントンとリズムを刻む。
「その人は先生を恨んだりしてません。きっと相談出来る相手がいて嬉しかったと思います。僕はその人に似ている気がします」
「えっ、、」
「あっすいません。その人の事よく知らないのに勝手な事をー…だけど先生が僕の事気にかけてくれてたのってそうゆう事なんじゃないかなって」
「……琉加くんと守屋が?」
そう言われてもしかして自分気づかない内に重ね合わせてしまっていたのかも。彼が言っていた"親に隠して自分の顔を変え人生をやり直したいって"まさに守屋があの時に言った言葉だった。
「だとしたらもうこれでその人も僕も先生に救われました!だからもう終わりにしませんか?過去に縛られるのは。僕は先生とー…この先も一緒歩んで行きたいです」
僕は彼の初めて会った時とは別人のような目をこの先もずっと見ていたいと思った。もう過去には戻りたくない。二人で前に進みたい…それだけなんだ。
僕は彼の頬にキスをした。なんだか今はそれだけで身体を重ねることより照れ臭くて幸せで胸がいっぱいになった。
別荘から少し離れた場所に一台の車が排気口から白煙を出しながら止まっている。その車内から同じ方向を見ている3人の姿。7日目を終えて最後の報酬をもらいに来た。
「あっ、ちょっと見えないっす!紘巳さん!もうちょい車近づけて下さいよっ」
『おいっ爽、何やってんだ?』
「だってここじゃ中まで見えないっすよ」
後部座席の窓を開けて身を乗り出してカーテンが閉められ、微かに明かりが漏れている部屋を目を細めて見ている爽。
「別に中まで見えなくていーの!そうゆうの"のぞき"って言うんだよ。あぁ〜なるほど爽はそうゆう趣味があるんだ〜!?」
「違うっすよ!典登さんまで変態扱いしないで下さいよ」
『寒いから窓閉めろ。典登は病み上がりなんだ』
渋々窓を閉めた爽はスマホで辺りをパシャパシャと写真を撮り始めた。初めて来た別荘地を気にいった様子。暗い辺りをフラッシュを焚いて撮影している。
「いや〜この場所いいっすよね!今度バイク仲間と行く場所を探してたんっすけど、ここ第一候補っす!」
「あれ?爽いつからバイク仲間なんて出来たの?いつもバイクは連 んで乗るものじゃなく一人で乗るからカッコいいっすよ!!とか豪語してたのに」
『確かにな。いきなりどうした?』
「あー…いやってかその、、っすね。あー!もうこんな時間っすから帰らないと!門限が!」
『いや門限って一人暮らしだろ』
「あーこれは絶対何か隠してるね?」
「何もないっすよ!もぉー変な疑いやめて下さいよー」
紘巳と典登に問い詰められた爽は冷や汗をかきながら必死に誤魔化し続けた。3人を乗せた車はしばらくそこから動く事なく、そしてカーテンから漏れていたあの部屋の明かりはいつの間にか消えて波の音だけが残った。
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