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第52話 C-02 西名×琉加 ㉓

 タクシーで待ち合わせ場所に着いた時には案の定行きたいお店は閉まっていて、寒そうに身を縮めて立っている彼を見つけた。 運転手さんに待っていてもらうように伝えて降りると、彼が気付いて手を振った。  「琉加くんごめんね。お店閉まっちゃったよね」  「いえ全然大丈夫です!今日は何だか特にキマってますね、服装が」  「うん、ちょっと仕事で集まりがあってね」  「もしかして大事な仕事だったんですか?すいません、それなのに誘って。本当はー…先生に会いたいだけで。プレゼントは二の次って言うか……あっ、、先生!?」  彼の顔を見ていると居ても立っても居られず人通りの中、彼を抱きしめた。もう誰に見られても関係ない。  「……せんせ、」  「朝まで一緒にいよう。拒否はなしだからね。タクシー待たせてあるし」  「拒否なんて、、する訳ないです」  手を繋いでタクシーに乗り込み行き先を伝えた。スマホを見ると兄からの着信が10件以上通知が表示されている今は誰にも邪魔されたくない残り僅かな時間、電源を切って彼を見た。 横に座った彼と手は繋いだまま高速を走った。  このままどこまでも行けるような気がして行き先なんて決めずに走らせていたかった。 わずかに残る背徳感がその思いを(とど)まらせ行き先を決めた。    「運転手さん。ここで大丈夫です」  連れて来たのは一緒に訪れたあの別荘。一週間前ここであのオイルを空けて始まった。終わりもここで一緒に迎えたい、記憶が消える瞬間まで。  中に入るともちろん誰も来た形跡はなくあの日のままの状態で時が止まっていた。  「やっぱりここ何回来てもいいですね!」  「琉加が良ければいつでもこよう、、これからも……」  「はい。」  それから一緒に買い出ししたご飯を食べてテレビを見て何でもない時間を過ごす。ただ普通の事をしたいだけ、ここに来た理由はそれだけだ。  「先生ってテレビとか観るんですか?ドラマとかバラエティーとか?」  「うーん、ドラマは見ないけどバラエティーは観るよ。お笑いとか好きだし」  「えっ、意外!じゃ〜今出てるこのコンビの名前わかりますか?」  「知ってるよ、マッチングボーイズでしょ。最新の流行もバッチリ抑えてるから任せて!」  そんなたわいもない会話が凄く幸せに思えた。誰かとテレビを観る時間なんて思い出せないくらい昔の話。その時ふと家族の顔が頭に浮かんだ。きっと今頃パーティを抜け出した事に両親は怒り心頭に発している頃か。それに加えて兄のあの写真もきっと目にしただろう、もう勘当されるくらいかもしれない。  ソファーに座り彼は僕の肩を頭を乗せた。あくびをして眠そうな彼の顔を覗き込む。  「眠い?それならもうお風呂入ったら?」  「はい、そうします。あー…先生、、一緒に入りましょう」  「えっ、一緒に?」  コクンっと頷き手を引かれてバスルームへ。スルスルと服を脱いで、二人でバスタブへゆっくり入り向かい合ってお湯に浸かる。  「広いから二人でも十分入れますね。うちこの半分しかないですよ」  「それはオーバーでしょ。ねぇ琉加くん、こっちおいで。髪洗ってあげる」  彼は後ろを向いて僕の足の間に座った。後ろからシャンプーをしっかり泡立てて美容師の手つきで揉むように洗うと、気持ちよさそうに目を瞑ってる彼。  「そう言えば教育実習の準備は出来た?……ん?琉加くん、聞いてる?」    返事が返ってこなくて顔を覗き込んだ。そのまま動かなくて本当に眠ってしまったと思い"琉加くん"と何度か声を掛けると、そのまま不意打ちのキスが濡れた唇に触れた。  「起きてますよ、だって眠ったら勿体無いじゃないですか」  僕は泡だらけの手のまま彼の顔を掴んで深く強く求めた。顔に当たる泡や水の感触も明日になればこのキスの感触されも忘れてしまうと思うと愛しいキスはとても悲しいキスにも思えた。

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