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プローローグ
「かあさまぁぁ…」
岩壁に響き渡る、幼き少年の声。
「ごめんなさい…。ごめんなさい、ごめんなさい…ハヅキ」
金髪の髪をした男性が瞳を瞑りながら必死に謝る。
「…」
「ー…許して」
涙を流しながら男性は、その場から走り去って行く。
私の愛しい御子よ。
罪深き、母を許さないで下さい。
貴方を護ると、決めた。
例え、誤謬(ごびゅう)だとしても…。
貴方を喪失うしな)うくらいなら、魔界へと堕とした方が賢明。そう、思う様になったのは無邪気に微笑むハヅキ、貴方を見ていたからです。
日に日に、彼の血を引いていると思い知らされる。
不意に魅せる雰囲気は、父親ソックリな部分があり、ハッとさせられた。
それでも、私は神王に献上するくらいなら。
魔界へ、堕天させる。
この地は…。
私が、彼と、愛を確かめ合った場所。
お互いに、恋に堕ちる準備をしていたのかも知れない。
いいえ、私が堕ちる瞬間だったのだと、今になって、思います。
ー…あの。
メロディーが、聴こえてきたのは、ハヅキ。
貴方の父親に抱かれた後でした。
『モーツアルト…鎮魂歌…』
一瞬だけ聞こえた、お嬢様の声…。
モーツアルトの遺作とも言われている『鎮魂歌』。
しかし、それを鳴らすには…。
多くの犠牲を伴い、やっと、流れる曲だと。
私は、微睡みの中で聞こえた。
『姉様、これは…罪に囚われた神々の曲なのかも知れません』
『そうね。だとしたら…私が奏でる曲も…』
朧気に見えた女性の声音が、何処か、切なく。
儚く…。
聞こえぬ声で、呟いた。
ー…罪と囚と名付けましょう。
奏でられる曲は、必然にも似た企てられた戯曲。
だから…。
私も、願っております。
彼に出逢ってくれる事を…。
心から、切に。
例え。
禁じられた遊びが始まったとしても。
貴方が、立派な“魔族”としていきられる様に。
私は、禁断の箱を開かれる瞬間を見る資格があります。
ー…ごめんなさい、ハヅキ。
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