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第一章:闇の世界で生きると誓った日。
ー魔界・黒の門
混沌の世界が、広がる。
それが、魔界という場所だと母様が、教えてくれた。罪、犯罪、愛欲を、犯した者が、辿り着く場所(ところ)。
僕の目に映るのは、大きな鉄製の“黒の門”と、呼ばれる物だと、察した。天界の『白の門』とは違い、妙な圧力を感じる。
幼い自分でも、空気が索莫(さくばく)していると、思う。
「此処が…“黒の門”。魔界の入り口」
僕は、ただ、刮目(かつもく)するしか、出来なかった。
何と…。
ー…寂しい場所なんだろう。
全身に、戦慄さを、感じてしまいそうだ。
今でも…。
あの、断崖絶壁を、登って、天界に、還りたい。
『ごめんなさい、ハヅキ…』
ー…母様。
脳裏に、描かれる母親の哀愁漂う表情が、忘れられない。
「おや?珍しいですね…」
門の前に、佇んでいたら、知らない男性(ひと)が、立ち止まり、金色の双眸が、僕を、不思議そうに、見ている。短めな、紫色の髪が、魔界の生暖かな風により、吹かれ、靡く。
ー…此処に、居るという事は。
「貴方は…悪魔さんですか?」
「ふふっ、人は皆、そう呼びます。そんな下級な者と、一緒にされたくないのですが…。子供には、解りませんね」
男は…。
何とも言えぬ笑みを浮かべながら、僕に、吐いた。
まるで、先生が、生徒に、教えるかの様に、優しく、話す。
「僕…人間じゃないよ?」
「…じゃあ、何なんですか?」
「ほんの数時間前まで、彼処に、居たの…。綺麗な花が、咲き乱れていて、天使の讃美歌が、聴こえる世界。母様は、晴れた天気になると…鼻歌を、唄うんです」
混沌の闇の上を、指す。
光溢れる世界は…。
もっと、温かな空気に包まれている。
魔界みたく、背筋を凍らす、空気じゃない。
「天使ですか…」
「うん。ほら、羽根も」
「…どんな、罪を、犯したのですか?」
「ー…知らない」
母様は、何も言ってくれなかった。
ー…罪が、何かを。
ただ…。
泣いていた。
滅多に見せない涙を流していたんだよ。
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