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笑顔が素敵な母様が、僕を見て。 ー…それが、何だか、無性に、悲しかった。 「知らないんだ。母様は…母様は…僕を、嫌いになったのかな?」 嫌いになったから、捨てたのかな? 「はぁぁ…。私とした事が。子供に、声を掛けるなんて、どうかしていますね…」 「…」 「名を言いなさい…」 「ー…ハヅキ」 男は、僕の名前を聞いてきた。 「フルネームで、お願いします…」 目の前に現れた古い本は、勝手に、開いていく。 お目に掛かるのは、初めてだけど…。 間違いなければ、僕の瞳に、映るのは“黒の本”だったりするのだろうか。 嘘を付いたら、過去に犯した前科が、暴かれるっていう話を聞かされた。 「ハヅキ・ペリドット・マルソ」 「マルソ?まさか…」 「母様の名は、ウリエル。ウリエル・ラリー・マルソ」 「ー…来なさい…」 急に、手を握られた。 僕は…。 思わず、目を、大きく開いた。 「君を、ある者に預けます…」 ー…それが。 初めて、出逢ったアルゼス様だった。 齢(よわい)、四歳の子供が、彼の正体を知ったのは、魔界に来て、六年経った時だった。 闇の世界で…。 ー…生きると、誓った。 あの日でもある。 だが、これは、序章にしか過ぎないと、知るのは、十二年後の歳月が、経ってからだった。 僕が、魔界へ、堕とされる前から、歯車が、狂い始めていた真実を知らされる日が、徐々に、近付いて来ているとは、当時は、思いもしなかった。 全ては、母様と、父様の出逢いから廻り始めた。 ー…魔族と、大天使の。 淡く、儚い恋愛から…。 惨劇の音(ね)が、鳴り始める。 ゴーン、ゴーンと、悲しい幕開けを、待っていたかの様に。 鳴り響いていたのを、誰も、知る由はなかった。 天界に、渦巻く、暗雲の元凶は。 ー…今かと、今かと。 長い首を、伸ばしながら待っていた。  

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