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第2話 ドM奴隷と拳銃 ※

短い破裂音と共に目の前が赤く染まり、少年は身を伏せた。 すべては一瞬の出来事だった。  ――ベッドに入ってからずっと、少年は憔悴していた。  今夜の客は乱暴なうえにかなりしつこかった。  ヤクザなのだろう、センスのないスーツを着て、ドタドタと慌ただしく部屋に入ってきた。     そしてすぐ少年の髪をひっつかんで床に引きずり下ろし、ベッドに腰を下ろしてフェラチオをさせた。少年が奉仕しているあいだ、男は跪いた少年のシャツの胸元に手を入れ、乳首をつまんだりひっぱったりして弄んでいた。  射精の瞬間、ぐいと少年の頭をつかんだ男は、その顔に精液を浴びせた。ねっとりした白い液体が、頬から顎もとまで伝い落ちていく。  間髪を入れず、少年をベッドに転がした男は、少年のパンツを下着ごと足首まで下げうつ伏せにした。  むっちりと引き締まった白い、美味そうな尻が男の眼前に晒される。    その尻たぶをわしづかんだ男は左右に押し拡げ、取り出した自身のペニスをいきなり()れようとした。  が、何の準備もなしにすんなり入るわけがない。 「あっ、やっ、めっ……てッ……」    咄嗟にずり上がろうとした少年の腰をおさえつけ、 「うるせぇ。淫売のくせに口ごたえすんな」  男は、少年の桃のような尻をペチンッ、と平手で叩いた。  少年の真っ白な肌が赤く腫れあがる。  ぷるんっと震えるその肉の淫靡さに舌なめずりした男は、 「ケツを高くあげな。逆らったお仕置きだ」  と前置きしてから、さらに数十回、少年の尻をペチペチと叩いた。 「うっ……あぁっ……」  枕に顔を押し付け、尻を高く掲げた格好のまま、少年はうっすらと涙を浮かべる。その尻にはいくつもの蚯蚓(みみず)腫れができていた。 「ケツ叩かれて感じてるのか。このどヘンタイが」  少年の股のあいだで揺れ動くチンポに目をやった男があざ笑う。少年の頬が羞恥で赤く染まる。 「チンポから汁が垂れてるぞ。ほら――」 「ひぃぃぃッ……!」  亀頭を水栓の蛇口を開くようにぐいっと捻りあげられた少年は、びくんっと跳ね上がった。 「こんなに感じてたらすぐにイッちまいそうだな」  立ち上がった男は、ベッドサイドテーブルの抽斗を開けた。  そのなかには、プレイに使う様々な道具が入っていた。  銀色に光るメタル製のコックリングを取り出した男は、 「とりあえずこれを使うか」  といいながら、仰向けにさせた少年のチンポとタマ袋をカチッと固定した。 「アッ……」  せきとめられた快楽に震える少年を楽しげに見下ろした男は、 「さーて、次はケツはめ――といきたいところだが、なかなか入んねぇなぁ?」  腕組みし、 「どうすればおまえのおマンコにおれのチンポがすんなり入ると思う?」  と聞く。 「……あ……穴を――しっかりとほぐし――ます……」 「ん? なんていった?」  わざとらしく聞き返した男に、 「お……お尻の穴にゆ、指を入れて……ク――クチュクチュかきまぜて……おマンコできるようにしま……す……」  少年は男が喜ぶような卑猥なことばを口にする。 「へっ。わかってんじゃねーか」  抽斗から取り出したローションを少年に向かって放り投げ、 「わかってんならとっととやんな。恥ずかしーところが全部見えるよう、股おっぴろげるんだぜ」 「は……はい――」  スーツの胸ポケットから取り出したタバコを吸いだした男の前で、大股開きになった少年は、チューブのローションを指先にとり、丸見えになった尻の穴に突き入れた。 「うっ、うぅっ……ンッ……」  ヌルヌルとめり込んでいく指の圧力にえびぞりになって身悶える少年の股のあいだに潜り込んで、白い輪をふーっと吐き出した男は、 「もっと指を動かせ。両手の指を突っ込んでおマンコしやすいトロマンコにするんだよ」 「うっ……はっ……はい――」  左手の中指も入れた少年は2本の指で、自らの内襞をクチュクチュと抉る。 「そうだ。左右に拡げて――おマンコのなかを見せな」  男の命令に、少年は鉤のように中で指を折り曲げ、クパッと左右にアナルを押し拡げる。充血した赤い肉襞が、眩しい蛍光灯の下にぱっくりと浮かびあがる。 「へへっ、だいぶ蕩けてきてんな。……気持ちいいか?」 「は――はい……」  男が渡したローションには、わずかにだが媚薬の成分が含まれていた。 「よーし、そのまんまそのいやらしいケツ穴ひろげてろ。挿れてやるから」  思い通りの痴態に上機嫌になった男は、灰皿にタバコを捨て、スーツの下とアンダーウェアを脱ぐと、下半身裸になって少年の脚のあいだに入った。  ズブッと遠慮なく捻じ込まれた男の勃起が、少年のアナルに突き刺さる。 「うぅっ……!」  瞬間、少年は嵌めていた指を外す。  少年の脚をつかんで持ち上げた男はぐいぐいと腰を押し進めていく。 「うっ……すげっ――締まるッ……」  恍惚の表情を浮かべた男は、 「いいカンジのケツマンコになったな。――最高だ」  といった。  それが――男の最後のことばだった。    はじめは何が起こったのかよくわからなかった。  自分の上で腰を振っていた男のからだが突然グラッと揺れ、後頭部から潰れたトマトのような赤い塊が噴き出した。  結腸まで届きそうなくらい深く埋まっていた男のペニスがビクビクッと硬直したかと思うと、もんどり打った男が倒れたはずみでスポッと抜けた。  真っ白なシーツにじわじわと広がっていく赤黒い染み。  目を剥いたまま絶命した男の断末魔の表情。  そのとき、カチッ、という音に、少年は顔をあげた。  こめかみに突き付けられた拳銃。  銃を手にし、ベッドサイドに立った若い男が、 「――わるいな。顔を見られたら生かしておけないルールなんだ」  そう憐れむような目で少年を見る。  映画のなかのワンシーンのような現実離れした出来事に、少年はことばを失った。  ふしぎと恐怖心はなかった。ただ、銀色の髪をした若い男の瞳が、日本人離れしたエメラルドグリーンなのが妙に美しいと思った。  白い手袋を嵌めた銀髪の男が、引き金に指をかけた。  とっさに少年が目をつむった――そのとき、「待て」という声がした。  銀髪の男の後ろから、白いトレンチコート姿の男が、姿を現す。  年齢は三十代半ばか。  すらっとした長身に引き締まった体躯。  ツーブロックの黒髪に、俳優のような渋味のある顔つき。    少年の顔をじっと見た男は、 「……商売のじゃまをしてわるかったな」  と微笑むと、銀髪の男の手から拳銃を奪い、コートの内ポケットにしまった。    ふと――コックリングを嵌められたままの少年の性器に目をとめる。媚薬のせいか、少年のそこは未だ先走りの汁を垂らしながら勃起し続けていた。 「……苦しそうだな」  男の手でリングを外された少年は、瞬間、「ンッ……!」と悶絶した。  そして、ブリッジのような体勢で「んんッ……!」と反り返り、男の前で精を放つ。 「あっ……ああっ……」  ザーメンをまき散らしながらビクビク身悶える少年を見下ろしていた男はやがて、 「――銀」  銀髪の若い男に声をかける。 「こいつは生かしておく。何か色仕掛けの役に立つかもしれない」 「はい」 「……あ――あのぅ……」  そのとき、リビングの入り口から弱々しい声がした。  水色のスカジャンを着たチンピラがそこにいた。さっき、殺された男を車で送ってきた手下だ。 「だ……大丈夫ですよね? おれがアニキをハメたってこと――バレないようにしてくれますよね?」 「ああ……」  もちろんだ、と答えた男にチンピラが安堵の表情を浮かべた――数秒後、その胸に穴が開き、空気の抜けたバルーン人形のように崩れ落ちた。    男の手に握られた拳銃から立ち昇る硝煙に少年は目を剥く。  銃をしまった男は少年に向き直り、 「十秒で服を着て支度しろ。すぐにここを出る。いいな?」  強い口調でいった。  マンションの管理人がふたつの遺体を見つけ警察に通報したのは、その翌朝のことだった。  

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