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第3話 管理人の証言

「須長勇吉、五十六歳、会田徹次(あいだてつじ)、二十二歳――若いな……」 「仙頭(せんどう)組の組員です。会田が須長の身の回りの世話をする、子分ですね。会田は組に入って三年ほど。須長は古株ですが面倒見はよくなかったそうで、周囲からはきらわれていたとか――それに最近は、丹下(たんげ)組と竜牙(りゅうが)会のあいだで、ちょろちょろ動いていたらしいです」 「丹下組?」 「はい。仙頭組はもともと丹下組の傘下だったのですが、ここに来て竜牙会に寝返ろうとしていました。丹下組の組長、丹下昇造(たんげしょうぞう)の服役中に一気に組を潰そうという動きが竜牙会にありまして。須長はそのための、いわば、スパイだったのです」 「ということは……」 「それに気付いた丹下組の制裁、という線が有力になりますね」    相棒の鳴門(なると)刑事の言葉に、草薙(くさなぎ)警部は腕組みした。  午前十時。  リビングに面したバルコニーから陽が燦燦と射し、ふたつの死体を照らし出していた。  草薙はベッドの上に転がった須長をじっと見た。素っ裸で、うつ伏せにうずくまった死体。両目は、化け物でも見たように大きく見ひらかれている。 「ここを借りていたのは?」  隣に来た鳴門刑事に聞く。 「会社のようです。表向きは人材派遣ですが……須長は週に一度ほど、ここを訪れていたそうです」 「ひとりでか」 「それはまだわかりません。ただ……」 「ただ?」 「管理人によると――あ、ちょうどよかった。――おい、ちょっと――」  鳴門刑事は管理人を連れてきた警察官に手招きし、呼び寄せた。これ以上ないくらいの仏頂面をした、白髪の小さな老人が警察官の後ろから姿を現す。 「夜勤明けで疲れてるんだがね」    声をひそめた鳴門が、 「ほとんどいつも寝ているそうですよ」  草薙に耳打ちする。  草薙は管理人に向かい、お疲れのところすみません、とにこやかな笑みを見せると、 「ひとつだけ、教えてください。あなたは須長たちが殺されたとき、マンションに入ってきた人間はいなかった、と証言されたそうですが、では、須長が来る前に誰か来ましたか?」 「警部、それは――」  先程の事情徴収で、管理人が誰も見ていないと面倒くさそうにいったのを知っている鳴門は草薙に知らせようとする。だが、草薙はそれを軽く制し、 「管理人さん――えっとお名前は?」 「桜井(さくらい)だが――」 「桜井さん。お願いです。いまいちど、よーく思い出していただけませんか。今回に限らなくてもよいのです。須長は誰かと会っていたのか。だとしたらそれはいったいどんな人物だったのか。桜井さんの証言が、この事件の謎を解く貴重なてがかりになるかもしれないのですよ」    すると桜井は少し気をよくしたのか、草薙に向かい、 「刑事さん。あんた息子はいるかね」 「……は? はぁ、高校生と大学生の息子がいますが……」 「わしにもそれくらいの孫がいる」  桜井は、 「こいつが来る前に来ていたのは、それくらいの年頃の少年たちだ。相手は毎回違っていたようだが……何をしていたのか、まったく知らんよ」  なるほど、草薙は心のなかでつぶやく。 (やっぱり、の人材派遣か。) 「ありがとうございました。お疲れのところ本当に恐縮です。せっかくですから、家まで車で送らせますよ――おい」  草薙は近くにいた警官に声をかけ、桜井を家まで送るよう指示する。  すると桜井は、 「ついでにもうひとつ。今回の少年はかなりの美少年だった。……そうだな、目の下に小さな泣きボクロがあって――あそこにあるホクロは美人の証だからな。思わず目を奪われたよ」 「……そうですか」  老人が去っていったあと、ベッドの下に潜っていた警察官が「あっ」と声を上げ、 「草薙警部。こんなものが落ちてました」  と飛び出してくる。  定期入れだった。茶色い革に刻まれたイタリア製ブランドのロゴ。なかに差し込まれた一枚の定期。 「ミウラ ツバキ……十六歳、男。通学定期ですね」    矢印で結ばれたふたつの駅名。草薙の脳みそがめまぐるしく回転する。 「鳴門」 「はい」 「この駅付近にある、すべての高校をあたれ。ミウラツバキという男子高生を探しだすんだ。いいな」  

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