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第4話

 ――翌朝。  僕は久方ぶりに私服の袖に腕を通した。  向かう先は、ロベルトの家である。僕は、待っているという言葉を真に受ける事に決めた。 「それに、聞かなきゃ。も、も、もし本当にロベルトが僕の事、好きなら……」  まさかの両想いである。そう考えただけで、顔から火が出そうになる。  何度も一人で照れながら、僕はロベルトの邸宅に向かった。ついでに家賃も貰ってきて欲しいと、祖父にも頼まれているので、仮に『冗談だった』と言われても、僕も『本気じゃなくて、家賃を貰いに来た』と返せる。僕はきちんと言い訳まで用意して、ロベルトの家を目指した。  そして庭に入ってから、深呼吸をして、呼び鈴を鳴らした。  するとすぐに扉が開き、黒い私服姿のロベルトが出てきた。昨日の騎士装束とは異なる、こちらの方が見慣れた姿だ。僕を見ると、ロベルトが両頬を持ち上げ、満面の笑みを浮かべた。 「来てくれて、有難う。入ってくれ」 「お邪魔します」  つい見惚れそうになったが、そんな自分を抑えて、僕は久しぶりにロベルトの家の中へと入った。応接間に促され、僕の目の前には以前と同じように、ロベルトが淹れてくれたお茶が置かれた。ティースタンドには、シュークリームや小さなサンドイッチがのっている。 「ジル、元気だったか?」 「うん。僕は元気だよ。ロベルトは? 怪我とかはしなかった?」 「ああ。今回の討伐は比較的易かった。ただ――ジルとほぼ一ヶ月も会えなくて、寂しくてならなかった。好きだ」 「……僕も会いたかったけどさ。そ、それって、その……友達としての好きじゃないの?」 「友達だと思われている事は分かっている。最初は仕事だったしな。だが、俺はジルに対して恋愛感情を抱いている」 「っ、な、なんで僕に? 僕の何処が良いの?」  卑下するわけではないが、僕は自他ともに認める平凡だ。それを、どうしてロベルトのように素晴らしい人が好きだと言ってくれるのだろうか。僕にはそれが、よく分からない。確かに恋愛は身分でするものではないかもしれないし、僕だってロベルトを好きかもしれないと思うのは、彼の性格に惹かれた事が大きいからではあるが……客観的に考えて、つり合いは取れないと僕は思う。 「仕事であっても気遣ってくれた事が、まず嬉しかった。だから、もう少し話がしたいと思って、当初俺は家に招いたんだ。だが――話せば話すほど、惹かれていった。自然体で俺と話してくれるのなど、ジルくらいのものだ。ジルだけは、俺を冷徹な騎士団長として恐れる事もせず、俺を怖がる事もなく、雑談に興じてくれた。幼い頃から知っているロルフは特殊だが、俺にとって、こういった経験は初めてだった。結果、好きになっていた」 「待って。だって、僕に対して、ロベルトは最初から怖くなかったよ? みんなの前でも笑っていたら、普通に気やすく話せるんじゃないかな?」 「好きでもない相手の前で、笑顔を浮かべることに俺は意味を見出せない。俺は、ジルと話している時は、自然と笑顔が浮かんでくるが、他の場合、そう言った事は無い。ジルは俺に、笑顔をくれる。俺に人らしい心をくれる。そんな存在なんだ、俺にとっては。それが、たまらなく愛おしい。愛している、ジル。好きだ」  ロベルトが僕を見て、真剣な顔をして述べた。僕はやはり赤面してしまった。こんなの、照れない方が無理だ。しかも平々凡々な僕を、じっくりと見て、導出してくれた答えなんだなという感じがする。 「ジル、俺を好きになってくれないか?」 「……もう、なってるよ」 「本当か?」 「うん……僕は、ロベルトみたいにきちんと言えないんだけど、一緒に話していたら、楽しくて、ロベルトは優しいし、それで、その……好きだなって思ってて……」 「まずもって、俺と話していて楽しいや優しいという感想を抱いてくれるのは、ジルだけだ。誰にも言われた事がない」 「それは、みんながロベルトの事を知らないからでしょう?」 「――俺は、ジルにだけ、知ってもらえたら十分だ。愛しているのは、ジルだけなのだから。ジル、俺の恋人になってはくれないか? 結婚を前提に、付き合ってほしい」  明確な問いに、僕は真っ赤のままで、硬直した。  この王国では、好きになった相手と伴侶になる事が推奨されているので、恋愛に性別は問わない。同性同士の場合は、養子を取る事が多いが。 「本当に僕で良いの?」 「ジルが良いんだ。ジル以外の何者も、俺は必要とはしていない」  真摯なロベルトの言葉に、僕はこの日囚われた。答えなんて決まっていた。  僕が頷くと、ロベルトが小さく息を呑んでから、破顔した。  こうして、この日から、僕とロベルトは恋人同士となった。  ――翌、月曜日。 第五騎士団勤務の僕は、本日も王宮へと向かった。  すると本部に入ってすぐ、ロルフ団長に奥の部屋へと招かれて、その場で質問攻めにあった。他にも先輩達も大勢いた。僕がボソッと、『一昨日から付き合ってます』と正直に答えると、その場で拍手された。  なお、毎週末は、僕はロベルトの邸宅で過ごす約束をしたと述べたら、お祝いだとして、ロルフ団長に香油をプレゼントされて、震えてしまった。僕は、完全にいじられている……。  まだ付き合ったばかりで、そんなのは、気が早い……よね? と、思うのだが、僕にはどのタイミングで体を重ねるのかというのは、ちょっと分からない。

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