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第1話
土曜日の夜。
隣で眠る男の寝息を聞きながら、ホテルのダブルベッドにうつ伏せになった羽小敏 は、ぼんやり考えていた。
(これぞまさに、日本語で言うところの「賢者タイム」なんだろうな)
激しい性交の後の、虚しい疲労感が、今の小敏には堪らなくうっとうしいのだ。
(ほんと、セックスなんて、疲れるだけなのに、なんでやっちゃうんだろう)
ここのところ、来るもの拒まずで、後先考え無しに付き合っていたら、あっという間に5夜連続で違う男とベッドを共にしてしまっていた。
(どうだろう、火曜日の人は悪くなかったかな)
そんな風に1人反省会をしていた小敏の首筋に、背後から息が掛かった。
「うわっ!ナニっ!」
驚いて逃げようとしたところを、抱くすくめられ、捕らわれてしまう。
「眠れない?」
寝起きの掠れた声が色っぽい。だが、もう小敏にそれを楽しむ元気はなかった。
「いや、今から寝るところ」
さらりとかわしたつもりだが、男は引き下がらない。
「眠れるようにしてあげようか?」
(バカみたい。アレだけやって眠れないのに、これ以上どうやって…)
小敏が相手にせずに背を向けていると、男はさらに体をすりよせてきた。
さらに、後ろから腰をグイッと押し付けてくる。
(マジか)
男のヤル気に、小敏はムッとした。
「悪いんだけど、もうゴムが無いしさ」
クルリと反転して、実年齢よりも若く見られがちな、カワイイ笑顔を浮かべて、小敏はやんわりと男の欲望を拒んだ。
「いいじゃないか。中出しさせろよ」
その言葉に、小敏はますますイライラさせられる。
「だ~め♡」
正直、殴って黙らせてやろうかとも思ったが、初めて会った相手と無駄に揉めるのもどうかと、小敏は、ここはカワイイ演技で乗り切ることにした。
「えー。いいじゃないか。君、とても上手だったし、カワイイし、もっとしたいな」
「うふふ♡」
(お前、大したことなかったクセに)
小敏は、心の内をしっかり隠しながら、ゆっくりと男から離れ、ベッドから出ようとした。
「逃げるなって」
「!」
男は、小敏がわざと焦らして誘惑していると勘違いしているらしく、腕を掴んで引き戻そうとする。
小敏は、ちょっとイラッとしながらも、ひきつった笑いを浮かべた。
「ダメなんだ。朝までに帰らないと、パパに叱られるから」
「なんだよー、パパに叱られるって、未成年じゃないだろう」
男は少し焦ったようだが、まだ笑っている余裕はある。
「もちろん違うけど…、うちのパパ、厳しいから」
「あー、そっちの『パパ』か」
1人合点がいったらしく、男は下卑た笑いを浮かべる。
小敏が誰かの愛人だと思っているようだ。
(ま、それでもいいんだけど)
「黙ってて、ゴメンネ」
「?」
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