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第2話

 羽小敏は、子猫のようにカワイイ仕草で、男の顔に触れた。小敏が甘えているのだと思い、男はニヤけた様子で、されるがままになっている。 「うちのパパって、軍の幹部で、ボクが帰らないと、公安とか平気で動かしちゃうんだよ」 「へ?」  とんでもなく大きな話になり、男は意味が分からずキョトンとなる。それを、小敏はニコニコしながら見つめていた。 「ボクとこんなことしたのバレたら…」  急に、小敏はカワイイだけの笑顔から、残酷で美しい悪魔の顔になって言った。 「…消されるよ」 「っひぃぃ」  言葉の意味が分かったのか、男は声にならない悲鳴を上げて、小敏から手を放した。 「じゃあ、ボク、シャワー使ったら、勝手に帰るから、ゆっくり休んでて~」  そう言って、羽小敏は、何事も無かったかのようにベッドから起き出し、バスルームに向かった。 ***  男が泊っていた、高層タワーが目立つ新錦江飯店を出た小敏は、北側の道をぼんやり歩いていた。  時刻は間もなく深夜0時。  朝まで、あの男といるつもりだったのに、今からでは、別の相手を見つけるのも面倒だな、と小敏は思った。  このまま茂名南路に向かって歩けば、24時間営業している飲茶レストランがある。そこで軽く何か食べて帰ろう、と小敏は決め、そのまま真っ直ぐに歩いていた。  間もなく、思っているレストランが見えて来る、と思ったとき、道路の向かいから嬌声が聞こえた。  この辺りは、日系の老舗ホテルがあり、日本からの出張客も多い。それを当て込んでの日本式のカラオケバーや美人ホステスがいるクラブも少なくない。  そんな中の一軒から、ちょうど酔客と見送りのホステスが出てきたところだった。 「アリガト!マタ、キテネ!」  ホステスたちのカタコトの日本語に、満足そうに日本人のオジサンは鼻の下を伸ばしている。 (いいね~。分かりやすい!これぞ日本人って感じ)  小敏は苦笑しながらも、それらを気に止めず、真っ直ぐに歩いていた。  一番酔って、歩くのもやっとなのは上司だろう。それを支える部下が1人、もう1人はホステスたちに何か言っているので、場馴れしているようだ。 (上海駐在員かな?)  現地に赴任している部下が、たまに日本から出張してくる上司を接待するというのは、よくあることだ。  向かいの歩道のやり取りを、見るとも無しに小敏は見ていた。  グダグダになるまで酔うだとか、部下が上司の面倒を見るだとか、いかにも日本人らしくて、4年の留学経験がある小敏は懐かしく思う。  中国では考えられない光景だった。

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